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運命(5)

太祖が亡くなったのは閏五月である。諸王が入京をとどめられて不快に思いながら帰った後、六月に至って戸部侍郎卓敬という者が、皇帝に密疏(秘密の上奏文)を奉った。その内容は、諸王を抑えて禍根を絶つべし、というものである。しかし、皇帝は卓の密疏を受けただけでそれに応じることはしなかった。断行の時機はついに終わった。
ああ、諸王も帝を疑い、帝も諸王を疑う。互いに疑って、どうして相背かないことがあろうか。
帝のためにひそかに謀るものがあり、諸王のためにひそかに謀るものがある。しかも、諸王の中には自ら天子になろうと思う者があるからには、事が決裂しないはずがない。

帝のために密かに謀るものは誰か。黄子澄であり、斉泰である。斉泰は子澄とともに帝の信頼するところとなって、国政に参与していた。太祖の遺勅によって諸王の入京をとどめた際には、諸王は、これは斉泰が洪武帝の遺勅を書き変えて、朱一族の骨肉の情を隔てたものだ、とした。諸王が泰を憎んだのも当然だろう。

諸王のために密かに謀るものは誰か。諸王の雄なるものは燕王である。燕王の近臣に僧道衍(どうえん)という者がある。道衍は僧とはいっても、俗世の欲望から離れた道心の僧ではなく、謀を好み、知略を好むものである。
洪武二十八年、初めて諸王が封国に就いた時、道衍は自らを燕王に推薦して、「大王が臣をお傍に勤めさせてくださるなら、臣は一白帽を奉って大王のためにそれを戴かせましょう」と。
「王」の上に「白」を置けば、それは「皇」の字である。つまり、燕王を明帝国の皇帝にしてさしあげよう、という意味である。

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酔生夢人
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空を眺め、雲が往くのを眺め、風が吹くのを感じれば、
それだけで人生は生きるに値します。

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