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「愛国者」という猿たち

「神奈川新聞」の記事(二回のうちの前半のようだ)を転載。
ここに書かれているのは、国民の間の閉塞感、あるいは自らの置かれた不愉快な状態へのやり場の無い怒りと不満、あるいは、日本人としての特権や、自分たちの階層の既得権が他国人によって内政的に奪われているという不満が、「自分より少しいい目を見ているよそ者」にぶつけられていくメカニズムである。
つまり、第一次大戦の敗戦で窮乏に追いやられたドイツ国民の怒りと不満をナチスがユダヤ人への怒りに転換したあの時と同じ状況が日本の右翼勢力によって作られつつある、と思われる。「攻撃されているのは自分ではないから」とその状況を黙視し、目を背ける人々は、やがて「愛国者」たちからの攻撃を自らも受けることになるだろう。
一見まともそうな普通の人が、なぜ急速に右傾化し、他民族排斥的行動に出るようになるのか。彼らにすればそれは「義憤」のつもりであり、「公憤」のつもりなのである。その行動がどういう結果を生むか、誰を利し、誰に害を与えることになるのか、おそらく彼らは考えていない。
一番おかしいのは、実は彼らは、個人としては何一つ、韓国や中国から害を受けているわけでもなんでもないところだ。ただ、「日本という国が侮辱された」「日本の国益が損なわれた」という理由で、彼らは興奮し、中国や韓国へのヘイトスピーチを繰り返すのである。そうすると、周囲にいる群衆が喝采を送る。もはや自分はスターという気分だ。警察も、むしろ彼らの保護者であることを彼らは知っている。いや、政府すら自分たちの後ろ盾だ、と思っているだろう。

「主婦目線のソフトな語り口で分かりやすく話していた。最初は気分が悪くなるかと思ったが、共感している自分がいた。」

だそうである。いかに上品で理性的なふりをしていても、彼らは猿でしかない。笑うのは、やがて戦争ですべての借金を帳消しにし、大金儲けを企む政府や政商たちである。
自称「愛国者」、あるいは自分を愛国者と信じる馬鹿たちが国民に大災害をもたらすのだ。




(以下引用)

今どきの愛国主義(上) 広がる動き正体探る


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 在日コリアンの排斥を唱えるヘイトスピーチ(差別的憎悪表現)をはじめ、これまでにない「愛国」を掲げた動きが社会に広がりを見せている。「普通の人たち」が極右的な発言をする政治家に投票し、排外デモに日常的に参加する。今、この社会で何が起きているのか-。今月1日、都内で開かれたシンポジウム「今どきの“愛国”って? 報道はどう向き合うのか」で気鋭の識者らがその“正体”を語り、警鐘を鳴らした。



◆「奪われた感」根底にジャーナリスト安田浩一さん


 今ヘイトスピーチをまき散らすデモを主導している「在日特権を許さない市民の会」(在特会)が活動を始めたのは2007年だ。当時、記事を書こうとしても同調者はいなかった。編集者たちは「取り上げることで社会に認知させてしまう」と。そうやって「一部のバカがやっていることだ」と切り捨ててきた。今、運動は激しさを増している。放任、無視してきた結果、社会に定着している。



 東京・新大久保や大阪・鶴橋、朝鮮学校周辺では「朝鮮人を殺せ」と唱えるデモが行われている。「南京大虐殺ではなく『鶴橋大虐殺』をやれ」と怒鳴っているのは中学2年生の女の子。「極右化する若者」という言葉ではくくれない人-例えば普通の主婦たちもいる。200人程度のデモはネット中継され、何万、何十万人が視聴する。影響や広がりは計り知れない。



 物理的な暴力による傷は癒えるが、言葉による深い傷は一生消えない。無根拠で痛みを伴った暴力をメディアは見過ごしてきた。



 デモ参加者の属性はさまざまだが、共通しているのは「奪われた感」だ。雇用や福祉、領土、歴史を「取り返す」ために運動をしている。



 「上から見下す差別」は昔からあった。90年前の関東大震災での朝鮮人虐殺がそう。そして今、メディアは事件で「○○国籍の男を逮捕」と報じる。国籍に意味はないのに、属性でひとくくりにする習慣がこの国にはある。



 さらに、在特会の運動の新しさは「下から見上げる差別」でもある点だ。象徴的なのがメディアへの攻撃。特権階級とみなし、今の行政や政治、教育をつくってきたのがメディアだと矛先を向けている。彼らは自分たちの運動を「階級闘争」と呼んでいる。



 やすだ・こういち ジャーナリスト。雑誌記者を経て2001年からフリー。労働問題を中心に取材、執筆。著書に「ネットと愛国 在特会の『闇』を追いかけて」「ルポ 差別と貧困の外国人労働者」など。49歳。



◆女性が加わる根深さコラムニスト北原みのりさん


 この20年の排外主義的な雰囲気は「愛国」と呼ぶには幼稚な言説だ。嫌悪や「嫌韓」の裏返しにすぎない。そこに女性が加わってきたのが特徴といえる。



 橋下徹大阪市長の慰安婦発言があった13年春から取材を始めた。憲法記念日に渋谷のハチ公前で街頭集会を開いた女性グループは「慰安婦問題はうそ」と言い、「憲法改正は、生ゴミに消臭スプレーをかけてごまかしているのと同じ」と自主憲法制定を訴え、「5月3日はゴミの日にしましょう」と、主婦目線のソフトな語り口で分かりやすく話していた。最初は気分が悪くなるかと思ったが、共感している自分がいた。



 グループの中心は40代、50代の「きちんとした人」。教師も企業勤めも子ども連れもいる。「持っていない人たち」の運動ではない。経済力も家庭もある、しかも皆、とても感じがいい。この運動は一体何だろうかと考えずにはいられない。



 震災や原発など重要なテーマがあるのに、なぜ慰安婦問題に取り組むのか。男性がこの問題を扱うといじめになるから、女性の私たちがやらなければという正義感が、そこにはある。



 根深さを感じるのは、女性が女性を「ずるい」と考える点だ。慰安婦だったと名乗っている外国の人たちを「ただの売春婦」「賠償金が欲しいだけ」と言う。日本人の元慰安婦は名乗り出ていないじゃないか、と。日本人であれば周囲に加害者がおり、名乗り出ることなどできないのは、考えれば分かるはずなのに。



 フェミニズムの立場からすれば、90年代からの揺り戻しも感じる。都知事だった石原慎太郎氏が男女平等のための施設の予算を大幅に削減するなど、攻撃が増え始めた。女性の社会進出を男が不愉快に感じているのだろうか。



 きたはら・みのり コラムニスト、女性のためのセックストーイショップ「ラブピースクラブ」代表。時事問題から普遍的なテーマまで幅広くジェンダー視点で考察。近著に「奥さまは愛国」(共著)など。43歳。



◆断言に心地よさ感じ北大大学院准教授中島岳志さん


 極端なナショナリズムは「反知性」と思われてきたが、実際は違う。都知事選で田母神俊雄氏に投票したのは、彼の難解な本を読める人たちだからだ。



 在特会の攻撃は在日コリアンだけではなく、部落解放同盟にも向けられている。キーワードは「特権」。橋下徹氏の支持者に勝ち組が多くいるように、成り上がり系は自己責任論を口にする。「俺は頑張った。でもあいつらは甘えている」と。



 日本維新の会から立候補した女性も自負心を口にしていた。そこから、慰安婦は甘えているというロジックが生まれる。要は皆、自分を認めてほしい。「あなたは頑張っているよ」と。



 一方、負け組は周囲の「ちょっと成功者」が嫌い。勝ち組には追いつけそうにないから、すべてがリセットされる戦争に希望を見いだしてしまうという論考(「『丸山眞男』」をひっぱたきたい 31歳フリーター。希望は、戦争。」)を書いた赤木智弘の著書になびく。



 93年に出版された鶴見済の「完全自殺マニュアル」は、死の手段を手に入れることにより、かろうじて生きることができることを伝えようとした。彼らは若いころにバブル崩壊と就職氷河期、95年の出来事を経験している。1月の阪神大震災、3月の地下鉄サリン事件、そして戦後50年を迎えた8月、過去の反省とおわびを示した村山談話だ。自虐史観、戦後民主主義からの脱却といった言葉があふれ始めた時期でもある。



 私を含め30代、40代の同世代が今、生きづらさを感じている。「人権を守ろう」「9条を守ろう」といった左派の言説が空虚に聞こえる中、小林よしのりや松本人志の傲慢(ごうまん)さが受けるのは、本当の事を言っているように聞こえる断言の心地よさがあるのだろう。



 なかじま・たけし 北海道大大学院准教授。ナショナリズム研究だけでなく現代日本の政治、社会の問題にも言及。インド独立運動の闘士を描いた「中村屋のボース」で大佛次郎論壇賞を受賞。39歳。







【神奈川新聞】


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