「不正が疑われる部長のメールの履歴を調べていたら、なんと不倫関係にある女性社員が同じ部署内にいることが判明しましてね。彼女が部長の不正行為のお手伝いをしてたんですよ」――。飲み屋で噂話をしているようだが、実は取材時の話。「フォレンジック」という技術を使った社内不正調査について、セキュリティー会社の幹部へインタビューした際のひとコマだ。
フォレンジックは、正式にはデジタルフォレンジックやコンピューターフォレンジックと呼ばれる技術。主に、パソコンやサーバーなどに入っている電子データを収集・解析し、犯罪捜査や訴訟における原因究明や証拠集めなどの調査に使われる。
消去したはずのデータやメールも見えてしまう
フォレンジックでは、電子機器のハードディスク内の保存データを解析するだけでなく、消去済みのデータやメールの復元、外部記憶装置へのコピーやプリントアウトなどの履歴まで、可能な範囲で復元して調べられる。
このためフォレンジックは、防衛省や警察、国税庁や公正取引委員会など、様々な捜査機関で使われている。企業における社内調査の需要も増えており、セキュリティー対策会社などが企業向けに、フォレンジックサービスを提供している。
筆者が取材したセキュリティー会社では、累計数百件のフォレンジック調査を手がけた実績がある。その6割近くが情報漏洩関連の調査。そのほか、不正会計やカルテルの調査、社内怪文書の作成者特定、盗撮者の追跡などの用途でフォレンジックサービスの依頼があるという。
そのような依頼の中から一つの匿名エピソードとして語ってくれたのが、冒頭の話につながる調査案件だ。とある商社の男性部長が、取引先とグルになり、請求書の金額を不正に操作。一部をキックバックとして懐へ入れていた。この案件は、現場の社員からの密告により経営層がこの部長への疑いを強め、証拠を掴むためのフォレンジック調査の依頼をしてきたのだという。