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あをによし 奈良の小鹿は ヤバいほど好きよ

「谷間の百合」さんの今日のブログ記事(引用2)が面白かったので、坂上郎女の歌をネットで少し調べてみた。下に引用したもの以外にもまだたくさんあるようだが、この一連の歌は、まるで万葉時代の俵万智である。と言うより、短歌の中で、女性の、日常的で平明な恋歌となると、どうしても俵万智を連想するのが思考的定型になってしまっている。
なぜ坂上郎女の歌を調べたか、というと、「谷間の百合」さんの記事に引用されていた歌の中の「うるほしき」の意味が分からなかったからだ。喉を「うるおす」とは言うが「うるほしき言」とは何だろうか、と思って調べると、某万葉サイトでは「愛しき」と表記されており、納得した。ならば、シャンソンの古典「聞かせてよ 愛の言葉を」ではないか。
なお、下に引用する歌には私が勝手に句読点を付けた。そうでないと現代人には理解が難しい、という判断である。
坂上郎女の元歌はぴんと来なくても、現代語訳は現代の若い女性にも受けそうな内容だ。誰の訳かは知らないが、うまい訳だと思う。
奈良のポスターに付けられたキャッチコピーは私も感心しない。「ヤバい」をいい意味で使うあたりが「現代的だ」という売りなのだろうが、坂上郎女の歌とのつなげ方が強引すぎて厭味である。まあ、それを抜きにして可愛い小鹿を見て「ヤバいほど好きよ」と思うのならば、それは自然なことだ。
本来なら、この記事は「谷間の百合」さんのブログにコメントとしてでも出すようなものだが、長すぎるので、ここに書いた。日常の些末事を推理するのが趣味の私にとって元記事はいい思考素材でありました。

*小鹿の写真を見たい人は、「谷間の百合」さんの方へ直接GO!


(引用1)

656番
【坂上郎女】(さかのうえのいらつめ

我れのみぞ 君には恋ふる。 我が背子が
 恋ふといふことは言のなぐさぞ。

恋しいと想っているのは私ばかり あなたが恋しいよと言うのは口先ばかりだわ

657番
【坂上郎女】(さかのうえのいらつめ

思わじと言いてしものを、 はねず色の
 うつろひやすき 我が心かも。

もう あなたの事を考えるのはやめとうと思ったのに また、あなたを想ってる

(夢人注)「かも」は詠嘆の語。「~だなあ」と訳せばいい。「はねず色の」は不明。

658番
【坂上郎女】(さかのうえのいらつめ

思へども 験もなしと知るものを、
 何かここだく 我が恋ひわたる。

どんなにあなたを想っても仕方がないとわかっているのに どうしてこんなに 恋しく切ないんでしょう

(夢人注)「ここだく」は多いことを表すので、「こんなに」の訳でいい。「わたる」は「~し続ける」意。

659番
【坂上郎女】(さかのうえのいらつめ

あらかじめ 人言繁し。 かくしあらば
 しゐや我が背子 奥にいかにあらめ。 

今から人の噂がたっているのよ ねえあなた まったくこの先はどうなるんでしょうね

(夢人注)「かくしあらば」は「斯く、あらば」に強調の「し」をはさんだもの。「しゐや」は不明。

661番
【坂上郎女】(さかのうえのいらつめ)

恋ひ恋ひて、 逢へる時だに 愛しき
 言尽くしてよ。 長くと思はば。

恋しくて やっと逢えた時くらい 優しい言葉をいっぱい言ってよ 私をいつまでも愛する気持ちがあるのなら





(引用2「谷間の百合」より)



十月二十九日 その二  ポスター




きのうは用があって奈良へ行っていました。

雨のなか、傘を差して歩いていると、上の観光ポスターが目に止まりました。
あまりの可愛さに、しばし、立ち止まって見ていました。
そのうち、どうしても、このポスターが欲しくなりました。
ちょっと距離がありましたが、駅の観光案内所に行きました。

「あのポスターが欲しいのですが」と言うと、あれは非売品だとにべもない返事。
諦めきれず、独り言のように「欲しいのになあ」とかわいく呟いてみたのですが、駄目なものは駄目でした。
それで、貼ってあったポスターを撮ってきたというわけです。

帰って調べてみると、外にも何人かブログに貼っておられました。
子鹿の可愛さに夢中だったので、「ヤバイほど好きよ。」というキャッチコピーを認識したのは帰宅してからでした。
センスがいいと評判だったということですが、わたしには分かりませんでした。
あまりいいようには思えませんでした。

このコピーの横に小さい字で(。。。と大伴坂上朗女が詠まれました)とあります。
その大伴坂上朗女のうたはこれです。

「恋ひ恋ひて、逢えるときだにうるほしく、言尽くしてよ長くと思わば」

この「うた」を現代のコピーライターは「ヤバイほど好きよ。」と表現したのです。

わたしもコピーを考えてみようかなと闘志が湧いてきました。
可愛い子鹿にも似合うようなコピーを。


このポスターを紹介したいだけの記事でした。



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酔生夢人
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空を眺め、雲が往くのを眺め、風が吹くのを感じれば、
それだけで人生は生きるに値します。

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