トランプの価値観は、「貿易赤字はアメリカにとって悪である」。
レーガン大統領が掲げた「脱工業主義」が功を奏して今日のアメリカの経済体質は過剰需要、過少供給のインフレ体質である。
正反対に日本や中国の経済体質はデフレ体質である。
アメリカの貿易赤字はアメリカの経済体質に起因しているのである。
アメリカは需要に対して供給過少だから国民が生活するには輸入に頼らざるを得ないのである。
トランプが貿易赤字を目の敵にし、その原因を貿易相手国の責任として関税を課すのは見当違いなのである。
アメリカは、トランプ関税による輸入減でモノとサービスの供給が減少すると、供給力に余裕のないアメリカはインフレになる。
トランプ関税で輸出減になり、モノとサービスの供給がだぶつくと需要に限界がある日本や中国はデフレになる。
供給に限界があるアメリカは輸入コストが高くても必要最低限度の輸入をせざるを得ないが、十分供給を増やすことが出来ないのでインフレが加速する。
インフレを防ぎ、十分な供給を増やす為には海外の生産拠点をアメリカに移す必要がある。
トランプ関税による輸出減で供給がだぶつく日本や中国は余剰供給を解消し、デフレを防ぐ為には内需拡大で需要を増やさなくてはならない。
日本や中国は自国の意志で内需拡大政策を採れるが、アメリカは自国の意志で海外の生産拠点をアメリカに移行させることは出来ない。
トランプ関税の狙いは海外生産拠点のアメリカへの移行を強制する為である。
計算上は海外の生産拠点がアメリカに移行された分だけ貿易赤字が減ることになるが、実際には「そうは問屋が卸さない」。
トランプの支持者である低所得者が必要としている3万ドル以下の大衆車は、トヨタのカローラを例外としてすべて輸入車である。
米国内のトヨタを除くいかなる自動車メーカーも又これからアメリカへ生産拠点が移るとされるメーカーもアメリカで製造すれば赤字が出ることが決まっているので3万ドル以下の自動車をアメリカでは製造することはない。
輸入車に高関税をかければ、関税前の3万ドル車は37,000ドルになり低所得者は買えなくなる。
カローラはアッと言う間に売り切れてアメリカに3万ドル以下の車が無くなる。
日本でもアメリカでも製造される自動車の75‐80%は約3万点の部品で出来ている。
日本でもアメリカでも自動車メーカーは部品のほとんどはいろんな国からの輸入に頼っている。
アメリカへの輸入車だけでなく輸入部品にも25%の関税をかけるのだから3万ドル以上の車のコストは上がり、米国車の競争力は落ち、消費者は必要な車が買えず泣く!
アメ車がアメリカで売れるには労働者の賃金を下げるしかなくなる。
トランプは関税で世界の首脳に頭を下げさせる為にアメリカの消費者と製造業を犠牲にしているのである。
「言うこととやることが正反対」、それがトランプである。
たとえば、次の一文などは、誰も指摘しなかったことではないだろうか。
例えば、フランス革命は、民主主義と同時に、フランスのナショナリズムを産み落とした。(同書118頁)
実は、これ(民主主義ナショナリズム)がナポレオンの「勝利の秘密」だった、というのが私の推定だ。
フランスが敵対した国々の軍隊は基本的に「傭兵」と同じ性質(兵士の個人的利益のために戦う軍隊)だったのに対し、フランス軍は「国民軍」であり、国家の利益のため、つまり「自分たち全体」のために戦ったのである。当然、前者は自分の命を守ることが最優先(戦闘後に生き残れば褒賞が得られる。つまり、戦闘では逃げ回るのが賢明)であり、後者は戦闘での自軍の勝利が最優先になる。どちらが強いかは自明だろう。
そして、兵士たちは、自分たちがなぜ勝てるのかの理由を知らないから、それは「戦闘を指揮していたナポレオンが優秀だからだろう」ということになる。また兵士自身がそう信じることで軍隊はさらに力を得るのである。「俺たちはナポレオンが指揮しているから負けるはずがない」となるわけだ。
これが、前回書いた「象徴の力」である。ナポレオンは誕生したばかりの「国民国家」の象徴だったのである。だから彼はどんどん出世してしまいには皇帝にまでなったわけだ。そして自分の力を過信したナポレオンは無意味なロシア遠征(「自国防衛の戦争」ではないから兵士たちには特に無意味であった。)を行い、その敗北で象徴としての力を失ったのである。