寒い日はこたつに入り、鍋などを囲めば温かくなる。満腹になったところで、手洗いなどに行こうとしたら、立ちくらみやめまいを覚えるケースもある。これは血圧が一時的に低下した状態だ。低血圧は高齢者で起きやすく、3人に1人で症状が出るといわれる。転倒し、骨折する危険もある。普段、高血圧気味の人も含め、注意が必要だ。
心臓から送り出された血液は脳や手足など体の隅々まで行き渡り、また心臓に戻ってくる。心臓が血液を送り出すために筋肉を収縮させた時の圧力が収縮期血圧(上の血圧)で、心臓の筋肉がもっとも広がった時の圧力が拡張期血圧(下の血圧)だ。血圧が正常より低い状態が低血圧で、上の血圧が100以下が目安となっている。
やせ形の若い女性などが「低血圧気味で朝なかなか起きられない」と訴えるケースもあるが、これは体質などが関係しており、原因がよく分からない「本態性低血圧」に分類される。
一方、高齢者などで食後の立ちくらみなどの原因となる低血圧は一過性の場合が多い。脳への血液が不足気味になり、ぼーっとしたり、めまいを起こしたりする。ひどいケースでは失神してしまう。
東邦大学医療センター佐倉病院の榊原隆次准教授は、食後に低血圧が起こる仕組みについて「食べた物を消化・吸収するため、血液が胃や腸に集まる。その結果、心臓に戻る量が減ってしまう」と説明する。胃や腸では消化に必要な消化管ホルモンも分泌される。このホルモンは栄養を体内に吸収するために血管を広げる役割があり、胃腸以外の末梢(まっしょう)の血管が広がりやすくなるという。
体内では、自律神経が働いて心拍数や血圧を上げている。しかし、高齢者などではこの調節の仕組みがうまく働かなくなり、低血圧になりがちだ。
榊原准教授は「普段、高血圧だといわれている人でもこうした現象は起こる可能性がある」と指摘する。また、糖尿病やパーキンソン病などの神経障害がある人は食後に低血圧症状になるケースが多いという。
食後にふらつきが気になる人は、ゆっくり食べるとともに腹八分目を目指すとよいと専門家は指摘する。1回に食べる量を減らして数回に分ける。
東京女子医科大学東医療センターの渡辺尚彦准教授は「食後30分~1時間は安静にして、濃い緑茶やコーヒーを飲むのも有効だ」と助言する。成分のカフェインなどに血の巡りを改善する作用があるからだ。みそ汁などで塩分を少し多めにとるのもよいという。
高齢者で起こる低血圧はほかにもある。起立性と呼ぶタイプだ。立ち上がった際に、血圧が急激に下がり、気を失って転倒事故などを招く。
このタイプは思春期の若者などで多く、不登校の原因などになることが知られている。健康な人でも疲れているときなどに起こることがある。体力の低下した高齢者で起こると、骨折やそれによる寝たきりなどをもたらしかねない。
自宅で仏壇の前に座って読経していた70代男性は30分後に立ち上がった瞬間、立ちくらみが起き、そのまま失神してしまった。夜寝ていてトイレのために起きる際などでも起こりやすい。
起立性低血圧に対処するには、腰のベルトを少しきつめにしたり、専用の加圧式腹部バンドを使ったりするとよい。弾性ストッキングをはく方法もある。末梢の血管の開きを抑えて血圧の低下を防げるという。散歩などの軽い運動や、足を5~10分組むのも予防効果が期待できる。
このほか、高血圧の患者が降圧剤を使ったときに一時的になる低血圧にも注意したい。渡辺准教授は「血圧の薬の中には、手足の先などの血管を開くものもある。起立性などの低血圧が起きやすくなる傾向がある」と指摘する。
患者のなかには、失神を起こすからといって自らの判断で降圧剤の服用を中止する人もいるという。しかし、服用をやめれば血圧がまた上昇してしまう。渡辺准教授は「自分で判断せずに、必ずかかりつけの医師に相談してほしい」と話す。降圧剤の量を調整する場合もあるという。
がんや心臓病などの病気とともに低血圧になる「症候性」と呼ぶタイプもある。病気の進行による栄養不足などが原因だ。
血圧が単に低いだけでなく、背後に病気が隠れている可能性もある。気になる症状があれば医師に一度診てもらうとよいだろう。