国立感染症研究所が3月31日に発表した「21大都市インフルエンザ・肺炎死亡報告」で東京の死亡者数が急増し、物議を醸している。
このデータでは、なぜインフルエンザ・肺炎死亡者数が急増しているのかは明らかにされていないため、「新型コロナウイルスの関連死が含まれているのではないか」との疑問が持たれている。
以下の図は21大都市合計だが、これを見ると実際の死亡数が10週から11週にかけて跳ね上がっていることがわかる。ただ、その数値はベースラインや閾値(いきち)を大きく下回っている。また、解説文にあるように、「超過死亡はありません」となっている。
https://www.niid.go.jp/niid/ja/flu-m/2112-idsc/jinsoku/1847-flu-jinsoku-2.html
では、ベースラインや閾値、超過死亡とは何を示すのか?
インフルエンザは医療機関を受診しなかった患者を含めた、総患者数を把握することは事実上困難だ。死亡数を把握する場合にも、死因をインフルエンザとするものから二次性の細菌性肺炎を続発して死亡に至った事例は含まれなくなり、一方で死因を肺炎とするとインフルエンザとはまったく関係のない病原体による肺炎死亡も含むこととなる。
このため、WHO(世界保健機関)は「超過死亡」という概念を提唱している。
超過死亡とは、インフルエンザが流行したことによって、インフルエンザ・肺炎死亡がどの程度増加したかを示す推定値だ。要は、直接および間接にインフルエンザの流行によって生じた死亡であり、仮にインフルエンザワクチンの有効率が100%であるなら、その接種によって回避できたであろう死亡数を意味する。
つまり、実際の死亡数が閾値(95%信頼区間を上限とする予測死亡数)を上回っている週における、実際の死亡数と閾値との差が超過死亡となる。一方、ベースラインはインフルエンザの流行が無かった場合の死亡数の推定値を示している。
では、東京のデータはどうか。以下を見て欲しい。
https://www.niid.go.jp/niid/ja/flu-m/2112-idsc/jinsoku/1852-flu-jinsoku-7.html
いかがだろうか?
8週目まで低下していた実際の死亡数が、9週目にかけて急激に跳ね上がり、閾値を突き抜けている。閾値は前述のように、簡単に言えば予測値の上限だから、予測値以上の死亡数が発生していることを表わしている。そして、説明文には21大都市の説明にはなかった「超過死亡がありました」との説明がされている。
こうした状況が、東京での新型コロナウイルスの感染拡大と結び付き「死亡数の中に、新型コロナウイルスによるものが含まれているのではないか」という疑問につながっている。
その背景には、米国の例がある。
米国では2019年から今年の冬にインフルエンザが猛威を振るった。CDC(米疾病対策センター)では、「患者数2600万人以上、入院者約25万人、死者約1万4000人」と推定されていた。
そのCDCがインフルエンザと見られていた患者や死亡者の中に、新型コロナウイルス患者が含まれている可能性があるとして、「インフルエンザによる死亡者の検査を実施」したことで、東京のインフルエンザ死亡数の急増にも、新型コロナウイルスによる死亡が計上されているのではないか、という疑念が高まったのだ。
こうした疑問が高まり、物議を醸し出している以上、国立感染症研究所は東京でのインフルエンザ死亡数の急激な増加について、明確な説明を行うべきだろう。