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白鯨#22


第27章 追跡・第一日

その夜、エイハブは、いつものように昇降口に寄りかかって僅かな休息を取っていたが、突然、ある匂いを嗅ぎ付けて、がばっと身を起こした。
「鯨の匂いがするぞ!」
たちまち、全員が叩き起こされ、三つのマストにはそれぞれ見張り番が上がった。メインマストには、もちろんエイハブ自身が上がったのである。
三人は、ほとんど同時に声を上げた。
「潮噴きだ、潮噴いとる、モゥビィ・ディックじゃあ! ついに出たぞ!」
はるか彼方の海に、今しも昇り始めた朝日に照らされながら、高々と潮を噴き上げているのが、かのモゥビィ・ディックであった。
甲板上の我々も、この名高い鯨を一目見ようと、我先にと舷側に集まった。
「スターバック、君は船に残れ。本船を守るんじゃ」
エイハブは、スターバックに命令した。スターバックは意表を突かれたような顔になった。
「しかし、船長……」
「これは命令じゃ。わしが貴奴めにやられたら、君が指揮を執って皆を無事に故郷に帰してやるんじゃぞ」
思いがけないエイハブの配慮に、スターバックは言葉を詰まらせた。
「短艇を下ろせ!」
すぐさま三つの短艇が下ろされ、エイハブの舟を先頭に、白鯨の追跡が始まった。しかし、スターバックの乗組員たる私は、この追跡の有様を、空しく本船の上から眺めているばかりであった。
従って、これから書くことは、後で本船に戻ってきた水夫たちの口から僅かに聞き取った事に、本船上から目撃した情景を加え、さらに幾分の想像を交えて書いたものと思って欲しい。
エイハブの舟は、猛然と白鯨を追っていったが、白鯨は追跡者の存在も知らぬげに悠然と泳いでいた。そして、頭をゆるやかに高く海面上に持ち上げたかと思うと、たちまち水中にその巨体を没したのであった。
三隻の舟は、白鯨が身を沈めた後の大きな渦の周りに集まり、白鯨が再び姿を現すのを待った。だが、ああ、何ということだろう! 白鯨が再び姿を現した時、それはまさしくエイハブの舟の真下だったのである。まるで、この舟こそが自分を狙う当の相手だと知っていたかのようではないか。
エイハブは、自らの舟の真下に、小さな白い点が現れ、それが急速に沸きのぼってくるのを見た。それが白鯨であることを知った時には、いかに豪胆なエイハブといえども、心臓を氷の手で掴まれたような気持ちであったに違いない。
エイハブは、舵を大きくひねって舟を旋回させ、この恐るべき敵の顎から逃れようと試みた。しかも、その手には、あの銛を握り、宿敵と刺し違えんと構えたのであった。
しかし、モゥビィ・ディックは、この舟の動きを知っていたかのように、機敏に方向を変え、舟を追いながら大きく口を開いた。
今や、海上に現れた白鯨の大顎は、エイハブの舟を両側から挟むように咥えていた。エイハブには、モゥビィ・ディックの真珠色の口蓋まで見えていただろう。
白鯨は、まるでわざとのように、二、三度口をもぐもぐと動かして、咀嚼した。小舟の舷側はみしみしと撓み、やがて二つに折れた。エイハブらは海に投げ出され、あるいは自ら飛び込んで、鯨の顎から逃れた。
白鯨は、短艇をへし折った事で満足したかのように、悠々と泳ぎ去った。
スタッブの舟に救助されたエイハブは、本船に戻るやいなや、白鯨の追跡を命じた。他の短艇も収容され、すぐさま船は白鯨の後を追ったが、もはや日はほとんど暮れ、白鯨の逃げた方向へと船を向かわせることで満足するしかなかったのである。






































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酔生夢人
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空を眺め、雲が往くのを眺め、風が吹くのを感じれば、
それだけで人生は生きるに値します。

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