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白鯨#15


第19章 スタッブの晩餐

倒された鯨を見たエイハブは、そっけなく、鯨を船につないでおけ、と簡単な命令を下して自分の船室に引っ込んだ。義務として他の鯨も捕るが、彼の頭には憎っくき白鯨を倒すことしか無いのである。
既に夜になっていたので、鯨の解体は翌日ということになり、鯨の巨体は船に横付けにされてつながれたという次第だ。
自分の手で鯨を倒したスタッブは、有頂天になり、はしゃぎながらダグーに言った。
「おい、ダグー、船から下りて鯨の尻尾のところをちょっと切ってきな。寝る前にステーキをひとつやっつけるからな」
スタッブは、甲板の上の絞盤を食卓代わりに、豪勢な夜食に舌鼓を打ったのだが、同じ時に船の下の海面では鮫どもが思わぬ鯨のご馳走に舌鼓を打っていたのであった。
「料理人、料理人、おい、羊毛親爺、こっちへ来い!」
スタッブの喚き声に、老黒人の料理人は、暖かなベッドのまどろみから叩き起こされ、よろめきながら仏頂面で甲板に現れた。
「何ですかな、スタッブさん」
「うん、お前にひとつ言いたいことがあるんだが、その前に下の方ではしゃいでいる鮫どもを少し黙らせてくれ。うるさくて自分の声も聞こえやせん」
羊毛親爺はランタンを手に、しぶしぶ舷側に近づいた。
「なあ、あんた方、スタッブさんが話ができんちゅうとるんで、お願いだから、少し静かにしてくれんかな。これ、静かにせい、ちゅうとるんじゃ、この悪魔どもめ!」
「こらこら、罰当たりな事を言うな。罪人を悔い改めさせるにはな、穏やかに話すもんだぞ。教会の説教を聞いたことがないのか」
「なら、あんたが説教すりゃあええ」
「まあいい。で、お前に話というのはだな、このステーキの焼き具合のことだ。お前、こいつをどう思う」
フォークに刺して目の前に突き出された鯨の尾のステーキの一片を羊毛親爺は頬張って、しなびた口をもぐもぐさせた。
「どう思うって、こんなうめえステイクは、おら今まで食ったことがねえだよ」
「この大嘘つきの老いぼれの悪魔め! こいつがうまいだと? いいか、こんな焼きすぎの、消し炭みてえなステーキを食ったのは、俺は生まれて初めてだ。今晩は許してやるが、もう一度こんな焼肉を俺に出してみろ、お前をあの鮫どもの晩飯に海に放り込んでやるからな。覚えておけ。いいか、ステーキは絶対に焼きすぎちゃあいけねえんだ」
「分かっただ」
口の中で文句を言いながら去ろうとした老黒人を、スタッブはもう一度呼び止めた。
「待て、明日、俺たちが鯨をばらす時にはだな、お前は忘れんで、鯨の鰭のところを取って置くんだ。それで塩漬けを作るんだぞ」
うなり声で返事して船室に潜りこもうとする後ろから、また声が飛ぶ。
「まだ話は終わっとらん。明日の朝飯には、鯨団子、晩飯には鯨のカツレツだ。それから、行く前に敬礼だ!」
階段を下りながら、羊毛親爺はぶつぶつ言う。
「神様、あいつが鯨食うより、鯨があいつ食った方がようがす。あいつの方が、下の鮫どもよりまるで鮫みてえだよ」
こうしてやっと、哀れな老黒人は再び寝床に潜り込むことができたのであった。











































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酔生夢人
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仙人
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考えること
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空を眺め、雲が往くのを眺め、風が吹くのを感じれば、
それだけで人生は生きるに値します。

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