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日韓という仲の悪い親戚も戦争まではしない

「内田樹の研究室」から転載。
内田樹は時々こういう鋭いことを言うから面白い。私が「日本も韓国も米国の属国なんだから、米国がこの両者の戦争を許すわけがない」(徽宗皇帝のブログ)と大雑把な言い方をするところを、実に神経細やかな、説得力のある言い方で言う。しかも、「米韓相互防衛条約」などというものまで証拠として出すのだから、誰でも納得する。
そのあたりが、学者らしいところだ。素人の思いつき垂れ流しの雑文とは違うようである。でも、小田嶋隆はもっと素晴らしい。
あらゆる領土問題をたった3行ほどで片付けてしまったのである。

小田嶋 隆‏@tako_ashi
マンションの壁にだってある程度の厚みは必要なわけだし、国境にグレーゾーンがあるのはむしろ自然な話なんではなかろうか。っていうか、そもそもマンションの壁は「共用部分」で、壁を挟んだどちらの部屋の所有にも属さないケースが普通ですよ。

と。(あんまり感心したので「アンファニズム」にも掲載した。)


(以下「内田樹の研究室」から引用)



竹島はまた違う問題である。
さいわい、この問題は今以上こじれることはない。
「こういう厭な感じ」がいつまでもエンドレスで続くだけである。
あるいはもっと重大な衝突が起きるかもしれないが、軍事的衝突にまでは決してゆかない。
それは私が保証する。
というのは、もし竹島で日韓両軍が交戦状態に入ったら、当然日本政府はアメリカに対して、日米安保条約に基づいて出動を要請するからである。
安保条第五条にはこう書いてある。
「両国の日本における、(日米)いずれか一方に対する攻撃が自国の平和及び安全を危うくするものであるという位置づけを確認し、憲法や手続きに従い共通の危険に対処するように行動することを宣言している。」
領土内への他国の軍隊の侵入は誰がどう言いつくろっても日本の「平和及び安全を危うくする」事態である。
こういうときに発動しないなら、いったい安保条約はどういうときに発動するのか。
他国の軍隊が自国領に侵入したときに、米軍が動かなければ、日本国民の過半は「日米安全保障条約は空文だった」という認識に至るだろう。
それはもう誰にも止められない。
そのような空文のために戦後数十年間膨大な予算を投じ、軍事的属国としての屈辱に耐えてきたということを思い出した日本人は激怒して、日米安保条約の即時廃棄を選択するだろう。
竹島への韓国軍上陸の瞬間に、アメリカは東アジアにおける最も「使い勝手のよい」属国をひとつ、永遠に失うことになる。
それに米韓相互防衛条約というものがあることを忘れてはいけない。
これは「戦時」における作戦統制権は米軍にあると定めている。
だから韓国軍の竹島上陸という「作戦」は在韓米軍司令部の指揮下に実施された軍事作戦なのである。つまり、「韓国軍の竹島上陸」はすでに日米安保条約をアメリカが一方的に破棄した場合にしか実現しないのである。
その場合、日本政府にはもはやアメリカと韓国に対して同時に宣戦を布告するというオプションしか残されていない(その前に憲法改正が必要だが)。
しかし、軍事的に孤立無援となった日本が米韓軍と同時に戦うというこのシナリオをまじめに検討している人は自衛隊内部にさえいないと思う(なにしろ北海道以外のすべての日本国内の米軍基地で戦闘が始まるのである)。
そんなことは誰も望んでいない。
日本人もアメリカ人も韓国人も、誰も望んでいない。とくにアメリカが望んでいない。
小さな島ひとつの所有をめぐっての日韓の意地の張り合いのせいで、アメリカの19世紀からの150年にわたる西太平洋戦略が灰燼に帰してしまうのである。
そんな情けないことをアメリカが許すはずがない。
あらゆる手立てをつくして竹島における戦闘行為の発生を抑止するはずである。
だから、安心してよい、というのもひどい言い方だが、ほんとうなのだから仕方がない。
このことからわかるように、外交についての経験則のひとつは「ステイクホルダーの数が多ければ多いほど、問題解決も破局もいずれも実現する確率が減る」ということである。
日本はあらゆる外交関係において「アメリカというステイクホルダー」を絡めている。
だから、日本がフリーハンドであれば達成できたはずの問題はさっぱり解決しないが、その代わり破局的事態の到来は防がれてもいるのである。
今さら言うほどの話でもないが、たまには思い出した方がよいと思うので、かくは贅言を弄したのである。

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