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ミス・オーティスは残念ながら


昨日書いたように私は村上春樹の小説が苦手(短編しか読んでいないが)なのだが、彼のエッセイは幾つか読んでいる。数日前に市民図書館から借りた中にも彼のエッセイ集(「村上ソングズ」)があったのを思い出して今読んでみたら、一つ新しい知識を得た。
私はシャンソンの「想い出のサントロペ」という歌(引用参照)が好きなのだが、同書中にあるコール・ポーター作詞作曲の或る曲の詞がそれによく似ているのである。
それを下に書き写し、村上春樹訳を参考に作った私の訳もつけておく。


Miss Otis Regrets ミス・オーティスは残念ながら

Miss Otis regrets she’s unable to lunch today  
Madame                    
Miss Otis regrets she’s unable to lunch today  
She is sorry to be delayed           
But last evening down in lover’s lane she strayed 
Madame                     
Miss Otis regrets she’s unable to lunch today   
                        
 
When she woke up and found that her dream of love was gone 
Madame                  
She ran to the man who had led her so far astray  
And from under her velvet gown         
She drew a gun and shot her lover down     
Madame                        
Miss Otis regrets she’s unable to lunch today  


The mob came und got her and dragged her from the jail  
Madame                  
They strung her upon the old willow across the way 
And the moment before she died      
She lifted up her lovely head and cried  
Madame                   
Miss Otis regrets she’s unable to lunch today  
Miss Otis regrets she’s unable to lunch today  



「ミス・オーティスはお詫びしてます」   

ミス・オーティスは残念ながら昼食には参れません  
マダム
ミス・オーティスは今日の昼食をご一緒できないとお詫びしてます
昨夜恋人の小路で道に迷ったのです
マダム
今日の昼食に参れないのが残念だとのことです

今朝目覚め 恋の夢が永遠に去ったことを知り  
奥様
彼女は無情な恋人のもとに駆けつけ
ビロードのガウンの下から
銃を引き抜いて 恋人を撃ちました
奥様
ミス・オーティスは今日の昼食には参れません

群衆が監獄から彼女を引きずり出して引き回し   
奥様
道の向こうの古い柳の木に吊るしました
死ぬ間際に彼女は
その愛らしい頭を上げ 叫びました
奥様     あなた様との約束の
昼食に参れなくて済まないと
昼食をご一緒できなくて済まないと





(引用「ハムレットの世情日記」より)



先日NHKのラジオ深夜便を聞いていたら衝撃的なシャンソンが流れてきた。金子由香利が歌っている「想い出のサントロペ」だ。原曲はコラ・ヴォケールの歌った新劇的シャンソンである。

爽やかな海辺の風のような心地よいイントロ。
主人公の女性が、海辺の別荘の持ち主に手紙を書いている形式で歌は進む。
そして主人公の女性が彼を・・・
ぞくっとする歌詞である。

訳詞

 ♪ この夏はサントロペにはまいりません
お借りしたあの家にはまいりません
この夏はサントロペにはまいりません
他のどなたかにどうぞ貸してください

あなたの家はとても美しく海の夜風がいつでも吹いていました

この夏はサントロペにはまいりません
とても楽しみに仕度もすんだのに
この夏はサントロペにはまいりません
望みをなくし彼も今はいません

あなたの家はとても美しく幸せに満ちた去年の夏でした

この夏はサントロペにはまいりません
私も彼も二度とは行けません
やがて誰かが私を捕らえます

いとしいあの人を、今、殺しました




ここでいともやさしく穏やかな後奏が流れ、
独白がかぶる。

Mon cherie madame,
この夏はサントロペにはまいりません
今年もこれからも・・・

と、多分フランス語の詞では、
毎年借りている貸し別荘の女主人に宛てた手紙の形を取っているので、
書き出しとして、
Mon cherie madameが入っていると思われる。



美しい海辺の別荘、潮風、淡淡と語る主人公。

 けれど、ラストはサスペンス風なショッキングで悲しい結末。


「太陽がいっぱい」とか「悲しみよこんにちわ」
とか、昔のフランス映画のサスペンスはハンサム(または美しい)主人公が恐ろしい殺人事件を起すのだが、あくまでそれはフィクションで、映画の中の美しいサスペンスとして楽しめたから良かった。

近頃はあまりに物騒で意味不明な無差別殺人や猟奇的な事件が起こりすぎて、フィクションの中のスリルとして殺人をとらえるのが難しい。

それでも、この曲の美しさが救いで、なんとなく聴いて見たいシャンソンとして人気がある。

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HN:
酔生夢人
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男性
職業:
仙人
趣味:
考えること
自己紹介:
空を眺め、雲が往くのを眺め、風が吹くのを感じれば、
それだけで人生は生きるに値します。

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