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「感傷性」への称揚

講談社が発行している「赤の謎」「青の謎」「白の謎」「黒の謎」という、4冊シリーズの江戸川乱歩賞受賞作家の中短編を集めた作品集があり、さすがに作家それぞれ達者なものである。乱歩賞自体は推理小説作家の登竜門的なものだろうが、その後ベストセラー作家や中堅作家になった人が多い。つまり、乱歩賞選定委員の鑑識眼が確かだということだろう。そういう意味では、作家歴が長いだけの作家への「功労賞」的な受賞が時々ある直木賞や、一発屋(特に、既に他のジャンルで名を成している有名人への、「宣伝効果」目当ての授賞)が多い芥川賞よりまともかもしれない。

で、ここで妄想的考察をしたいのは、藤原伊織の「ダナエ」という作品を読んでの感想だ。それは、彼の作品は他の推理小説作家の作品群との違いがあるのではないか、という説である。そして、それは「センチメンタリズム」だ、というのが私の考えである。これは悪い意味ではなく、それを「詩情」と言ってもいい。
他の作家の作品は、「上手く虚構を作れましたね」と感心はするが、感動はあまりない。まあ、推理小説に感動を求めるのが間違いで、あくまで娯楽だ、というのが本当だろうが、そこに推理小説(あるいはSF小説、あるいはホラー小説)が「文学」より一段下に見られるところがあると思う。(これは世間的評価の意味で、私は優れた娯楽小説は「文学」より貴重だという考えだ。そもそも、私も含め、大衆は「文学」など読みもしない。)
で、「ダナエ」を読んで私は不覚にも涙を浮かべたのだが、それがあきらかに「センチメンタリズム」の涙だ、というのも意識していた。いや、人間は、感動で涙するよりも、感傷によってこそ涙するのではないか、というのが私の主張である。
まあ、感動と感傷は何が違うかと言えば、それは独断的に言えば「詩情の有無」だと言っておく。
ついでに言えば、「ダナエ」は、推理小説として完璧な構成を持っており、細部の破綻がまったくと言っていいほど無い。特に「ダナエ」というタイトルが、完全に小説の主題を暗示しているのが最後に分かるのが見事である。で、小説の最後に至って、読者に涙を浮かばせるのであるが、それは「推理小説」としての感動ではまったく無い。それを私は「センチメンタリズム」と言っている。それは演歌の中にも学校唱歌の中にもポップスの中にもある。
私は俗流ハードボイルド小説(ピストルと拳骨とセックス)が大嫌いなのだが、一流のハードボイルド小説には詩情がある。その詩情を「センチメンタリズム」と私は言っている。 


ちなみに、リラダンの短編、「センチメタリズム(サンチマンタリズム)」は、まさしくハードボイルド小説である。ハードボイルドとは、「声を上げて鳴く虫よりも 鳴かぬ蛍が身を焦がす」ということだ。けっして「男のハーレクインロマンス」ではない。もちろん、「ハーレクインロマンス」を軽蔑する女流作家が、それ以上の作品を書いているとは限らない。少なくとも売れていない。


(追記)「隠居爺の世迷言」を読んでいたら、末尾にこのような部分があったので転載する。若手小説家の作品に情緒が欠けているのは、「合理主義」優先の世相の反映かもしれない。感性がアメリカ式にドライになり、「恋愛=即セックス」「嫌悪感=即殺人」では、情緒も何もあったもんではない。

 最近の世の中には、情緒が無くなっているような気がする。人はもちろんそうだけれども、建物などの人造物からも情緒的なものを取り除いていっているような。アメリカナイズってそういうことなのかな。情緒はおしゃれじゃないから?

 本来の自然な情緒が取り除かれている一方で、コロナ怖いとか、ウクライナかわいそうなどという、金儲けのために作られた情緒に人々が簡単に乗せられてしまうというか、洗脳されるというか。LGBT推進法などというのもその手のものだよね。

 情緒的ではなくなったように見えるけれど、実は原始的で単純な情緒しか持つことが許されなくなってきたということかな。要するに官製情緒だね。つまらない世の中になってきたものだ。岸田総理お勧めのグレートリセット、そしてその後の世界というのも、官が一人一人の情緒をコントロールしようとするものなんだろうなあ。これ以上ない基本的人権の侵害であるように思うな。ていうか、人を人とも思わぬ所業だよね。

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