読みさしの本を閉づるや夜の雨
(最初は「読みさして」だったが、辞書を引くと「読みさし」は名詞で、その動詞形があるか不明なので「読みさしの」にした。無季句)
服重ね寒さに気づく深夜かな
(これは「寒いから服を重ねたんだろう。時間的順序がおかしい」と言われそうだが、実際に、何となく服を重ね着した後で、体が震えたのである。つまり、体自体は体外気温に慣れていたが、無意識が「今は寒いのだよ」と教え、何となく重ね着した後で、体がそれに反応したのである。)
なお、上のほうに書いた句で読んでいたのは北村薫の「鷺と雪」で、その中にmassacreという英単語の話が出るが、このmassを「ミサ」の意味に取るのは無理だろう。小栗虫太郎の「黒死館殺人事件」に出てくる説らしい(まあ、冗談だろう)が、massは明らかに「大量」の意味であり、それを一般に「虐殺」と訳すこと自体が間違いだと思う。massacreは「大量殺害」であり、その殺し方の問題ではない。つまり「虐げる」意味の「虐」は不要である。これは、その大量殺害を「残酷だ」と感じる気持ちが「虐殺」という訳語になったと思う。もちろん、acreが厳しい、辛辣ななどの意味のacrid、acrimony、acrimoniousから来ていると思われるので、そちらを重視した訳語が「虐殺」になったとは思うし、おそらく「虐殺」を大量殺人と同義だとする人も多いだろう。だが、一人だけ殺しても、その殺し方が残虐なら虐殺なのである。そして一人だけしか死人がいない場合、massacreという言葉は使わないはずだ。
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