その六十二 アトラスト山
「自分の母親を相手に戦うなんて、そんな事、できません」
アリーナの言葉に、ヴァルミラもうなずきました。
「そうだろうな。これは無理な願いだった。なんとか、おだやかに女王を退位させるだけでこの戦を終わらせようと思うが、先のことはわからないからな。いずれまた会おう」
ヴァルミラやピエールに別れを告げ、ハンスたちはまた上空に上がりました。
「さて、どこへ行こうか」
セイルンの言葉に、アリーナが言いました。
「頂きが天に届くほど高い山なら、アトラスト山じゃないかしら」
アトラスト山とは、グリセリードとアスカルファンの境い目の大山脈の中の最高峰です。もちろん、まだ人間が登ったことはありません。
ハンスたちも、うなずきました。
「アトラスト山に登ってみよう」
西へ西へと進んで、やがて大山脈が見えてきました。
地面から数十メートルの高度を保ったまま、山の斜面にそって進みます。あっという間に、ふもとははるか彼方になりますが、山頂はまだまだ上です。なにしろ、エベレストの二倍、富士山の四、五倍ほどもある山なのです。当然、その山頂は雲の上にあり、下界からはほとんど見えないのです。
高度が上がるにつれ、どんどん寒くなります。ふるえているアリーナに、ハンスは自分の上着をかけてやりました。
「だめだ。これ以上、俺の雲では上れない」
セイルンがくやしそうに言いました。山の、およそ八合目、つまり全体の十分の八くらいの高さです。
「どうする。おりるか?」
チャックがハンスに言いました。
「いや、横に飛んでみてくれ」
ハンスはセイルンにたのみました。きっと、どこかに、天国への入り口があるはずだ、という確信のようなものがハンスの心にありました。
山の横肌をながめながら、ずっと飛んでいくと、アリーナが声を上げました。
「あっ、洞窟があるわ!」
なるほど、アリーナが指差したところには、ほとんど垂直に切り立った岩壁に、ぽっかりと洞窟らしい穴が開いています。
ハンスたちは、雲をその穴に近づけて洞窟の中に下りました。あらためて下を見ると、何という高さでしょう。下界は、ほとんど雲にかくれていて、雲の切れ目からわずかに見える部分も、藍色のもやのようにしか見えません。下を見るのも恐ろしいほどです。
「自分の母親を相手に戦うなんて、そんな事、できません」
アリーナの言葉に、ヴァルミラもうなずきました。
「そうだろうな。これは無理な願いだった。なんとか、おだやかに女王を退位させるだけでこの戦を終わらせようと思うが、先のことはわからないからな。いずれまた会おう」
ヴァルミラやピエールに別れを告げ、ハンスたちはまた上空に上がりました。
「さて、どこへ行こうか」
セイルンの言葉に、アリーナが言いました。
「頂きが天に届くほど高い山なら、アトラスト山じゃないかしら」
アトラスト山とは、グリセリードとアスカルファンの境い目の大山脈の中の最高峰です。もちろん、まだ人間が登ったことはありません。
ハンスたちも、うなずきました。
「アトラスト山に登ってみよう」
西へ西へと進んで、やがて大山脈が見えてきました。
地面から数十メートルの高度を保ったまま、山の斜面にそって進みます。あっという間に、ふもとははるか彼方になりますが、山頂はまだまだ上です。なにしろ、エベレストの二倍、富士山の四、五倍ほどもある山なのです。当然、その山頂は雲の上にあり、下界からはほとんど見えないのです。
高度が上がるにつれ、どんどん寒くなります。ふるえているアリーナに、ハンスは自分の上着をかけてやりました。
「だめだ。これ以上、俺の雲では上れない」
セイルンがくやしそうに言いました。山の、およそ八合目、つまり全体の十分の八くらいの高さです。
「どうする。おりるか?」
チャックがハンスに言いました。
「いや、横に飛んでみてくれ」
ハンスはセイルンにたのみました。きっと、どこかに、天国への入り口があるはずだ、という確信のようなものがハンスの心にありました。
山の横肌をながめながら、ずっと飛んでいくと、アリーナが声を上げました。
「あっ、洞窟があるわ!」
なるほど、アリーナが指差したところには、ほとんど垂直に切り立った岩壁に、ぽっかりと洞窟らしい穴が開いています。
ハンスたちは、雲をその穴に近づけて洞窟の中に下りました。あらためて下を見ると、何という高さでしょう。下界は、ほとんど雲にかくれていて、雲の切れ目からわずかに見える部分も、藍色のもやのようにしか見えません。下を見るのも恐ろしいほどです。
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