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天国の鍵67

その六十七 アリーナの秘密

 天使がハンスたちを連れて行った場所には、一つの鏡のようなものがありました。
「アリーナ、いや、シルベラ、お前には父親の顔を見せてやろう」
アリーナは、おどろいて天使を見ました。自分の父親がだれであるか、実はアリーナは知らなかったのです。そして、なぜ女王シルヴィアナが、その男のことを秘密にしているのかも。
鏡に映っているのは、栗色の髪をした、魅力的ないい顔をした中年の男です。どこかで見たような顔ですが、思い出せません。
「これだけではわかるまいな。では、これを見るがいい。これがお前の兄だ」
鏡に映った顔を見て、四人はびっくりしてしまいました。なんと、そこに映っていたのは、マルスだったのです。読んでいる人たちも、びっくりでしょう。インチキだ、という人もいるでしょうね。推理小説なら、まったくの脇役として描かれていた人間が真犯人だと言われるみたいなものですからね。
鏡は、もとの栗色の髪の男の像を映しています。
「この男の名はマルシアス。アスカルファンからグリセリードに来て、そこの宮廷で仕えた人間だ。そして、女王シルヴィアナが夫を失った後、彼と恋に落ち、お前をひそかに生んだのだ。グリセリードに仕えているとはいっても、単なる家臣で、しかも外国の人間と結婚することはできなかったから、お前のことも、マルシアスのことも隠されていた。だが、いずれは公表するつもりもあったのだが、そこにロドリーゴという男が現れた。ロドリーゴは魔法の力でお前の母をたぶらかし、自分を愛するようにさせた。そして、マルシアスを憎ませたのだ。マルシアスの心も、お前の母親からは離れた」
 マルシアスという名前には聞き覚えがあります。そう思ったハンスの心に答えるように天使が言いました。
「そうだ、ヴァルミラが愛していた男だ。マルシアスも、ヴァルミラを妹か娘のように可愛がっていた。だが、マルシアスはアスカルファンとの戦争で死んでしまったのだ。だから、アリーナよ、お前はアスカルファンに行き、マルスに会うがよい。グリセリードは今や戦いの中にある。お前の住むべきところは、平和なアスカルファンだ」
「グリセリードの戦いをやめさせることはできないのですか」
「われわれが手を下せば、簡単なことだ。だが、神は地上のことには関与しないのだ。それは神が地上を人間に任せたからなのだよ。善も悪も、人間の自由にまかされている。そこにこそ人間の存在の意味があるのだ」
 なんだか、ソクラトンと同じようなことを言っています。
「この戦いはどうなるのかな」
 セイルンが聞きました。すると、天使は、意外な事に「それは私にはわからない」と言いました。

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酔生夢人
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男性
職業:
仙人
趣味:
考えること
自己紹介:
空を眺め、雲が往くのを眺め、風が吹くのを感じれば、
それだけで人生は生きるに値します。

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