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町の妖精

最近、寝ざめに夢を見ることが多い。夢は五臓の疲れと言うから、内臓にガタがきているのかもしれない。しかし、夢はまた映画を見るのと同じことで、面白くもある。
他人の見た夢の話ほどつまらないものはないというが、備忘のために書いておく。

私は会社を辞めることになって、その最後の仕事に、病気療養中の同僚の見舞に行くように上司に命令される。夢の中では私はまだ40代になったばかりという感じである。
で、その病院が沖縄市の北区というところにあるらしいのだが、私はその場所を知らない。沖縄市は私が子供時代を過ごした町だが、現在の地理は現実にもあまり分からないのである。私はバスに乗り込むが、中の様子が妙だ。入口付近に座っている人がほとんどいない。その理由はすぐに分かる。入口付近に座っている若い男が嘔吐し、その吐瀉物があたりに飛散しているのである。私はそれを避けて席に座る。多分、私と入れ替わりにその若い男は降りるのだが、私が席に着くと、私の後ろにいた若い娘、まだ16、7歳くらいの白いドレスを着た娘が、辺りに付着したその吐瀉物を紙で拭いてきれいにする。気が付くと、その若い娘は3人連れで、妹らしい少女と弟らしい少年が一緒にいる。
私は、例の病院の場所を知らないか、とその若い娘に聞く。すると、多分、あのあたりではないか、と答える。その場所は、私が何度か夢に見た場所で、何度もそこで道に迷って困り切った町である。
どうやら、それらしい場所に着いたので私はバスを降りる。その娘たち3人も同じ場所で降りる。この子供たちは孤児らしい。浮浪者らしい薄汚れた身なりであるが、しかし娘たちは可愛らしい顔である。下の弟はまだ7、8歳くらいだが分別臭い顔をした、落ちついた少年だ。
私は、なぜかバスの中で赤ん坊を拾っていたらしく、その赤ん坊と、見舞の花束と、そしてなぜか差し入れの弁当を持って病院に行くが、そこの受付で、同僚は既に亡くなっていたと聞かされて途方に暮れる。べつに親しい同僚ではなかったので、私が途方に暮れたのは、手に持った花束や弁当の処理をどうするかということである。
(そう言えば、その前に、近くの交番で病院の場所を聞いたのだが、その時に赤ん坊を交番に引き渡すことを少しも考えなかったのはなぜだろう)
病院を出てからか、病院の中かは知らないが、私は、先ほどのあの娘が人気のない地階フロアでくるくると回りながら踊っているのを見つける。その側には妹、弟以外に、若い男がいて、その娘の踊りを眺めている。娘は、町の妖精のように見える。
その若い男は、彼女に気があるのだろうな、と私は考えるが、その時に、私の抱いた赤ん坊の足の間が生暖かくなっているのに気づく。オシッコをしたのである。
私が困っていると、娘は踊りをやめて私の側に来て、私に代わって赤ん坊を抱っこする。その様子を見て、若い男は不満顔で立ち去る。
娘が赤ん坊をあやす様子を私がぼうっと見ていると、妹の方が私に、姉は私が好きらしいというような意味のことを言う。弟は、「この人では頼りないな」みたいな批評をした気もするが、よく覚えていない。
で、そこまでで夢はだいたい終わりなのだが、なぜ長々とこんな話を書いたかというと、町角で、あるいは無人の地下道やビルのフロアでくるくると踊る少女の姿が非常に印象的で、そのイメージだけで映画が一つ作れそうな気がするので、備忘のために書いたわけである。現実の私は40代ではないし、若い娘とどうにかなりたいというような年齢ではない。
映画の最後は、こうだ。その若い娘は妹や弟と引き離され、一人だけになる。(もちろん、私などただの通りすがりの人間にすぎない)そして、夜明けの町の中でただ一人踊るのである。いつまでも、くるくる、ひらひらと、妖精のように。

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酔生夢人
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自己紹介:
空を眺め、雲が往くのを眺め、風が吹くのを感じれば、
それだけで人生は生きるに値します。

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