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「魔群の狂宴」14



・風はあるが、良く晴れた初冬の日。郊外。
・乗馬して野原を行く、理伊子と力弥。地面には雪が残っている。

理伊子「軍人さんは乗馬もお上手ね」
力弥「理伊子さんこそ、お上手です。いつごろから乗っているんですか?」
理伊子「まだ、2年くらいですわ」
力弥「本当にお上手だ。我々は仕事上の必要から習っただけですから、最低限の技能しか持っていません。近衛騎兵などは、実に上手に馬を操りますよ。パレードで馬が暴れたら大変ですからね」
理伊子(力弥の言葉は耳に入らない様子で遠い前方を見て)「あら? あれは『噂の子爵様』ではないかしら」
・前方から同じく乗馬で近づいてくる銀三郎。
・軽く敬礼して銀三郎を迎える力弥。
銀三郎(力弥に会釈しながら理伊子に顔を向け)「そちらの軍人さんとは初対面だと思うが、紹介してくれますか?」
理伊子「真淵力弥少尉よ。少佐だったかしら? 私、軍隊の階級がよく分からなくて」
力弥(笑って)「外部の人には同じようなもんでしょう。どちらでもいいですよ」
銀三郎「須田銀三郎と言います。お見知りおきを」
力弥「須田子爵ですね。存じ上げております」
理伊子「ところで、お菊さんと鳥居先生の縁談はどうなりまして?」
銀三郎「関心がおありで? ただの庶民の縁談ですよ」
理伊子(冷笑を浮かべて)「もしかしたら、銀三郎さんが心穏やかでないのではないかと」
銀三郎「ほほう? 僕が菊に関心を持っていると?」
理伊子「そりゃあ、あんな可愛い娘が近くにいたら、若い男が関心を持たないほうが不思議でしょう」
銀三郎「残念ながら、僕は妻帯者なんで、そういう資格が無いんですよ」
理伊子、青ざめる。
理伊子(言葉を詰まらせながら)「そ、その方、あなたの奥様は、私が存じ上げている人なんですか?」
銀三郎「いや、知らんと思いますが、この前の園遊会であなたが少し話していた、田端退役大尉の妹ですよ。もっとも、あいつは退役大尉でも何でもなく、ただの上等兵上がりですがね」
理伊子「そうですか。ご結婚おめでとうと申し上げるべきでしょうね」
銀三郎「さて、おめでたいかどうか。相手は少し頭のおかしいビッコの女なんでね」
理伊子「御冗談でしょう? 本当なんですか?」
銀三郎「まあ、若気の至りですが、結婚したからには仕方がない。ということで、近いうちに世間にもこの話は伝わるでしょう」
一礼して去っていく銀三郎。呆然として馬上で凍り付く理伊子。心配げに見守る力弥。
力弥「そう言えば、その田端という男が分不相応なカネを手に入れたようで、酒場で騒いでいたそうです。しかも、郊外に家を買ったということですが、そのカネの出どころがもしかしたら須田子爵かもしれませんね」
理伊子「あなたも案外下々の噂に詳しいのね。そんな酒場などにお行きになるんですか?」
力弥(ムッとした顔で)「……同僚から聞いた話です。どうやらあなたにはあまり嬉しくない話のようですね」
理伊子「あら、どうして?あの須田子爵はもともと頭がおかしいという噂の人ですから、私は何とも思っていませんわ。さあ、風も冷たいし、そろそろ戻りましょう」

(このシーン終わり)

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酔生夢人
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男性
職業:
仙人
趣味:
考えること
自己紹介:
空を眺め、雲が往くのを眺め、風が吹くのを感じれば、
それだけで人生は生きるに値します。

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