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「魔群の狂宴」 16


・雪の残る道路に落ちているアジビラ。靴に踏まれ、泥にまみれているが、煽情的な赤い大文字で、何かを糾弾するアジビラだと分かる。
・家々やビルの壁に貼られた同じアジビラを剥がす警官。その際、「夕張炭鉱」「労働者弾圧」「不正資本家を糾弾せよ!」などの字が読める。
・家の玄関の戸の隙間から投入されたアジビラを見つけて読む少年。その姿を見て慌てて少年の手からアジビラをひったくり、叱責する家人。
・岩野家の屋敷の前を通りながら、屋敷を見上げて、何かひそひそ話をする通行人たち。そのひとりは、着物の懐から例のアジビラを出し、相手に見せた後、すばやく引っ込める。
(上のシーンはすべて無音)

富士谷の家の中。富士谷、兵頭、栗谷が集まっている。
兵頭「あのビラを撒いた以上、我々に捜査の手が伸びるのは確実だ」
富士谷「前と話が違う。あんたは、この件で我々が逮捕されることはないと言っていた」
栗谷「まあ、俺はそうなると最初から思っていたけどな。富士谷さんも覚悟の上だろう?」
兵頭「逮捕されるとは言っていない。ただ、捜査されると言っただけだ。その追及から逃れるには、いい手がある。それは、もっと大きな事件を起こして混乱させ、しかも、その犯人を警察に密告することだ」
富士谷「俺は、これ以上の直接行動は嫌だ」
兵頭「アジビラ程度は直接行動の範疇に入らん。お前はまだ何もやっていないのだ。破壊無しに建設ができるか」
栗谷「誰を犯人にするんだ?」
兵頭「佐藤と桐井だ」
富士谷「それは可哀そうだ。我々とは方針が違うだけで、悪い奴らじゃない」
兵頭「犠牲無しに革命はできん。大きな事件を起こすことで、全国民にこの社会の悪に気づかせるのが目的なのだ。つまり、国民ひとりびとりが問題の存在に気づき、考えることが革命の第一歩なのだ。偉い学者が学界の片隅で何を言おうが、何の足しにもならん。俺たちのような無学者でも、行動すれば、社会は動く。まあ、要するに、家が火事になれば、生命の危険は誰でも分かるが、資本家が労働者の給与を低くするという「殺人行為」は、それが殺人行為だと気づかれないのだ。」
富士谷「だから、我々が火事を起こすのですか? それじゃあ、資本家と変わらないじゃないですか」
兵頭「どの家が火事になるかで意味は違ってくる」
栗谷「火事というのは、ただのたとえですか?」
兵頭「本物の火事でもいい。中身の腐った家は壊すか燃やすしかない。だが、我々が火をつける必要は無い。そういう仕事にはそれに適した連中がいる」
富士谷と栗谷、物問いたげに兵頭を見るが、兵頭は冷酷な微笑を浮かべているだけである。

(このシーン終わり)


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酔生夢人
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男性
職業:
仙人
趣味:
考えること
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空を眺め、雲が往くのを眺め、風が吹くのを感じれば、
それだけで人生は生きるに値します。

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