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超訳「踊るドワーフ」#44

「君が僕にダンスを教えると言うのかい?」
「そうしてもいいよ」彼は言った。「だが、一日や二日の練習では何にもならない。最低でも半年くらいの練習は必要だし、それも毎日、一日中やってのことだ。それが誰かの心をダンスでつかむということさ」
私は頭を振った。「それなら、そいつは無意味だ」私は言った。「もしも僕が半年も待たねばならないとしたら、誰か他の男が確実にあの子をモノにするだろう」
「君はいつダンスに行くんだい?」
「明日の夜、土曜日だ。彼女はダンスホールに行くはずだし、僕も行く。僕は彼女に、一緒に踊ってくれと頼むつもりだ」

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超訳「踊るドワーフ」#43


彼はたぶん正しいのだろう、と私は思った。私はとても平凡だ。誇れるものは何も無い。金も無いしハンサムでもないし、話上手でもないし、特別なものは何も無い。正直、私は悪人ではないし、真面目に働いている。工場の人たちは私を好いている。私は体が強くて健康だ。だが、私は女の子たちが一目惚れするタイプの男ではない。私のような男が、どうして彼女のような美人を手に入れることができるだろう。
「知ってるだろ?」ドワーフは囁いた。「私に助けを求めれば、上手く行くって」
「僕を助ける? どんなにして?」彼は私の好奇心を掻き立てた。
「踊ることでさ。彼女はダンスが好きだ。彼女に、君が優れたダンサーであることを見せるんだ。そうすれば彼女は君のものだ。君はただ木の下に立って、果実が君の手の中に落ちてくるのを待っていればいいだけだ」

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超訳「踊るドワーフ」#42

私たちは長い間丸太の上に、何も話さないまま座っていた。頭上の高いところでは風が木の枝を鳴らす音が聞こえた。木々の幹の周りを飛びながら、巨大な蝶が現れたり消えたりしていた。
「いずれにしても」彼は言った。「君は僕に何かしてもらいたいことがあったはずだ」
「僕がかい?」私は彼が何のことを言っているのか分からなかった。
ドワーフは木の枝を拾って、それで地面に星を描いた。「あの女の子」彼は言った。「君はあの女の子が欲しいんだろ?」
彼はステージ8の新人の可愛い子のことを言っていたのだ。私は彼がそんなことを知っていたのに驚いた。もちろん、これは夢の中であり、どんなことでも起こり得るわけだ。
「確かに、僕は彼女が欲しい。しかし、彼女を得るのに君の助けを借りることはできない。自分の力でやるべきだ」
「君にはできんよ」
「なぜそう断言できるんだ」
「知ってるんだ」彼は言った。「怒ってもかまわないぜ。だが、事実は、君は自分の力じゃあ彼女をモノにできない、ということだ」

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超訳「踊るドワーフ」#41

踊っていない時には、このドワーフは弱弱しい、悲しげな生き物だった。おそらく、彼がかつては宮廷の堂々たる名士であり踊りの権威であったと想像できる人はいないだろう。
「少し具合が悪そうだね」私は言った。
「ああ」彼は応えた。「森の中はとても寒くなるんだ。長い間一人で暮らしていると、健康に異常が出てくる」
「それは大変だ」私は言った。
「私にはエネルギーが必要だ。私の血管に流れ込む新しいエネルギー源が必要だ。踊って踊って、雨の中でも風邪を引かず、野原や丘を駆け巡るエネルギーが私には必要なのだ」
「なるほど」私は言った。(訳者注:「Gosh」の訳は、辞書では「えっ」とか「おや」と書かれているが、場面に合わないので、「なるほど」と訳した。基本的には驚きを示す間投詞だが、村上春樹的主人公が、ここで驚きを示すのは私には違和感があるからだ。)

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超訳「踊るドワーフ」#40

ほかにやるべきマシな事も特に無かったので、私はドワーフの周りをうろつき、空を見上げ、最後には彼の傍に座った。空は灰色で曇っており、黒い雲が西の方へ流れていた。いつでも雨が降り出しそうな感じである。おそらくドワーフは、雨に備えてレコードとレコードプレイヤーをどこかに片づけたのだろう。
「やあ」私はドワーフに言った。
「やあ」彼は応えた。
「今日は踊らないのかい」私は尋ねた。
「ああ、今日は踊らない」彼は言った。

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超訳「踊るドワーフ」#39

その夜、あのドワーフがまた私の夢に現れ、そしてまた、私はそれが夢だと知っていた。彼は森の中の開墾地で丸太の上に座り、紙巻煙草を吸っていた。今回は彼はレコードもレコードプレーヤーも持っていなかった。彼の顔には疲れたような印があり、それが彼を私が最初に見た時より老けさせてみせた。だが、彼を革命前に生まれた他の人と見間違えるはずはなかった。彼は私よりふたつかみっつ年上に見えたが、確かなことは言えない。ドワーフとはそういうものだ。

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超訳「踊るドワーフ」#38

「誰かほかの人とのデートがあるの?」
「全然」彼女は言った。そして彼女はゴーグルと帽子を再装着して、作業台から象の足の爪をつまみ上げ、脚にそいつを当てて合うかどうかチェックした。爪は少しばかり大きすぎたので、何度か素早くやすり掛けをした。
「ねえ」僕は言った。「もし君がデートの予定が無いなら、僕と一緒に行こうよ。一人で行くより楽しいよ。それにいいレストランを知っているんだ」
「それは結構ね。私は一人でダンスをしたいの。あなたもダンスをしたいのなら、誰もあなたが来るのを止めたりはしないはずよ」
「僕は行くつもりだ」
「それはあなた次第」彼女は言った。
私を無視して彼女は働き続けた。今彼女はやすり掛けした爪を足の前の空洞に押し込んだ。今回は完全にフィットした。
「初心者にしては凄く上手いね」私は言った。
彼女は答えなかった。

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プロフィール

HN:
酔生夢人
性別:
男性
職業:
仙人
趣味:
考えること
自己紹介:
空を眺め、雲が往くのを眺め、風が吹くのを感じれば、
それだけで人生は生きるに値します。

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