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超訳「踊るドワーフ」#58


私は踊り始めた。最初はゆっくりと、だが次第に速力を速め、しまいにはつむじ風のように。私の体はもはや私のものではなかった。私の腕も足も頭も、すべてが荒々しくフロアの上を動き、私の思考とは関係しなかった。私は自分自身をダンスに捧げ、その間ずっと私は、星々が通過し潮が流れ風が吹きすぎるのを明確に聞くことができた。これが真実にダンスをするということだった。私は足を踏み鳴らし、腕をスイングし、頭を空中に高く上げ、そして旋回した。私が回れば回るほど白い光の球が私の頭の中で爆発した。
再び彼女は私をちらりと見て、それから彼女は私と共に旋回し足を揃えてステップした。彼女の内部でもまた白い光が爆発したのを私は知っていた。私は幸福だった。これまで経験したことが無いほど幸福だった。

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超訳「踊るドワーフ」#57

彼女は素晴らしいダンサーだ、ドワーフは言った。彼女のような踊り手とは踊る価値がある。さあ、行こうか。
ほとんど自分の動きを意識しないまま私は立ち上がってテーブルを離れ、ダンスフロアに向かった。たくさんの男たちを押しのけて前に進み、彼女の傍に来ると、私は踵を鳴らして、彼女と踊る意思を周囲に伝えた。彼女は旋回しながら私をちらっと眺め、私は彼女に微笑みかけたが、彼女は反応しなかった。その代わり、彼女はひとりで踊り続けた。

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超訳「踊るドワーフ」#56


彼女はひとりで踊った。オーケストラはタンゴを演奏した。彼女は催眠術的な優雅さで音楽に向かっていた。彼女が体を低く屈めるたびに彼女の長い、黒い、カールした髪が風のようにフロアを掠めて過ぎ、彼女の細い指が、空中を漂う見えないハープの弦を弾いた。完全に何の迷いもなく、彼女はひとりで、自分自身のために踊った。私は彼女から目を離すことができなかった。それはまるで私自身の夢の続きのように感じられた。私の混乱は増すだけだった。もしも私がひとつの夢を、他の夢を作るのに使うのなら、その中で本当の私はどこにいるのだろうか。

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超訳「踊るドワーフ」#55

心配するな、ドワーフは言った。彼女は来る、リラックスしろ
時計の針が9時を回った時、彼女はダンスホールに姿を現した。彼女はタイトで微かに光るワンピースのドレスを着て、黒いハイヒールを履いていた。ダンスホール全体が靄となって消えそうなほど彼女は輝いてセクシーだった。最初に一人の男が、そして次の男次の男と彼女の周りの汚点となって彼女をエスコートしようとしたが、彼女の手の一振りが彼らを群衆の中へと追い払った。
私はビールを啜りながら彼女の動きを目で追った。彼女はダンスホールの、私とちょうど正反対のところにあるテーブルに座り、赤い色のカクテルを注文し、長いシガレットに火を点けた。彼女はほとんど飲み物に手をつけず、シガレットを吸い終わると、それを灰皿で消し、次のシガレットには火を点けなかった。そして立ち上がり、高飛び込み台に近づいていくダイバーのように準備が整った感じで、ゆっくりとダンスフロアに向かって進んだ。

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超訳「踊るドワーフ」#54

私は席を見つけ、ビールを頼み、ネクタイを緩めて煙草に火をつけた。ダンスホールに勤めるダンサーの娘たちが時々私のテーブルにやってきてダンスに誘ったが、私は無視した。顎を手で支え、時々ビールを啜りながら、私はあの娘がやってくるのを待った。
一時間が過ぎたが、彼女は姿を現さなかった。歌の行列がダンスフロアを流れ過ぎていった。ワルツ、フォックストロット、ドラマーたちの競演、高音のトランペットのソロ。すべてが無駄に過ぎた。私は彼女が、まったくここに踊りに来る気もなかったのに私をからかったのではないかと思い始めた。

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超訳「踊るドワーフ」#53

ダンスフロアは大きな、動力化されてゆっくりと回る円盤だった。椅子とテーブルはその外周に列をなして並べられていた。その上方には大きなシャンデリアが天井から吊るされ、曇りなく磨かれた木のフロアがその光を氷の敷布のように反射していた。円盤の向こうにはバンドのステージが、競技場の観覧席のように一段高く作られていた。そのステージでは二組のフルオーケストラが30分交代で演奏し、一晩中休みなく豊潤な音楽を供給していた。右側のひとつは二組のフルドラムセットを備え、ミュージシャンたちは赤い象のロゴの入ったブレザーを着ていた。左側のオーケストラのメインの出し物は10人のトロンボーンセクションで、この一座は緑色の仮面を着けていた。

(訳者注:文末が「~た。」の連続で単調な訳になっているのは分かっているが、面倒なのでそのままにしておく。基本的に、15分以内で訳すのを毎回の仕事量としているので。そうでないと根気が続かない。本当は辞書を引くのも面倒くさい。しかし、英語に訳された文章を読んでいると、村上春樹の作品は、日本人が考えているより名文なのだろうな、という感じはする。構成の妙、比喩の妙、小道具や細部の妙、ストーリー展開の妙を含めての話だ。だが、他の作品を知らないので、これは「踊るドワーフ」に関しての感想だ。ある意味、英語で読むと良さが分かるような性格の名文なのかもしれない。彼の作品の世界的な評価が高いのはそのためではないか。)

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超訳「踊るドワーフ」#52

私は彼女を求めて群衆を掻き分けた。私に気づいた友人たちが私の肩をつかみ、話しかけてきた。私は彼らにでっかくフレンドリーな笑顔を見せたが、一言も喋らなかった。すぐにバンドが演奏を始めたが、彼女は見当たらなかった。
落ち着け、ドワーフは言った。夜は若い(訳者注:これは直訳で、日本語としては不自然だろうが、英語のジャズやポップスを聞く人なら直訳の方がぴったりくるかと思う。)。期待するに足る時間はたっぷりある。

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HN:
酔生夢人
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男性
職業:
仙人
趣味:
考えること
自己紹介:
空を眺め、雲が往くのを眺め、風が吹くのを感じれば、
それだけで人生は生きるに値します。

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