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超訳「踊るドワーフ」#23

老人は、そのドワーフがいかにして北の国から無一文でここまでやってきたか、話し続けた。彼は、製象工場の工員たちが集まるこの居酒屋に居場所を得て、つまらない仕事をやっていたが、それも、マネージャーが彼が素晴らしいダンサーだと知って、彼をフルタイムのダンサーとして雇うまでだった。工員たちは女性のダンサーを期待していたので最初はぶつぶつ文句を言ったが、それほど長いことではなかった。飲み物を手にして彼らはまさに催眠術にかかったように彼のダンスを見た。そして彼は他の誰でもできないようなダンスを踊った。彼は見ている連中から、それまで彼らが感じたこともなく、自分がそういう感情を持っていると知りもしなかったような感情を引き出した。彼は彼らのそうした感情を、まるで魚の腸を引き出すように白日のもとに裸にした。

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超訳「踊るドワーフ」#22

「じゃあ、もう一杯俺のぶんの酒を注文してくれ。別のブースに行こう」
私はMecatolを2杯注文して、バーテンダーから離れたブースまで運んだ。その席のテーブルには象の形のシェイドの付いた緑色のランプがあった。
「あれは革命前のことだ」老人は言った。「そのドワーフは北の国から来た。何て素晴らしいダンサーだったことか! いや、単にダンスが上手だったんじゃない。彼はダンスそのものだった。誰も彼の域に達することはできん。風と光と匂いと影。それらが彼の中で爆発した。あのドワーフにはそれができた。たいした見ものだった」
彼のグラスが、そのわずかに残っている歯に当たって軽い音をたてた。
「あなたは実際に彼が踊るのを見たんですね」私は尋ねた。
「見たかだって?」老人はその両手の指をテーブルの上に広げて言った。「もちろん見たさ。毎日、ここでな」
「ここで?」
「聞こえただろ? ここでさ。彼は毎日ここで踊っていた。革命前にな」

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超訳「踊るドワーフ」#21

「踊るドワーフだと?」彼は言った。「君は踊るドワーフのことを聞きたいのか?」
「ええ、聞きたいです」
彼の目が私の目をまっすぐに睨んだ。「一体全体、何のためにだ?」彼は尋ねた。
「さあ、何でかな」私は嘘をついた。「誰かが私にその話をしたんです。面白そうに聞こえたので」
彼は私を厳しい目で見続けたが、その目は酔っ払い特有のどんよりした目になっていった。「いいだろう」彼は言った。「よくないわけはない。あんたは俺に酒を奢ったし。だが、ひとつだけ」彼は指先を私に突き付けて言った。「誰にも言うな。革命はずっと昔の地獄だが、今でも踊るドワーフの話はしちゃいけねえ。だから、俺が言うことは何であれ、お前さんの胸ひとつに納めておくんだ。そして、俺の名前をよそで出すな。いいか?」
「わかった」

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超訳「踊るドワーフ」#20


「本物の古い写真に見えるね」私は彼の興味を惹こうとして言った。
「革命前は」と彼は事実を述べる口調で言った。「私のような年寄りでも小僧だったのさ。だが、誰でも年を取る。あんたもすぐに私のようになるさ。待っててみな、坊や」
彼は大口を開いて笑った。唾が飛び、歯が半分失われた口の中が見えた。
それから彼は革命の話を始めた。明らかに彼は王も革命軍も嫌っていた。私は彼の喋るままにさせ、Mecatolをもう一杯彼に奢った。そして、タイミングを見計らって、彼はもしかして踊るドワーフのことを知らないかと聞いた。

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超訳「踊るドワーフ」#19

私はその男が、「磨き作業をしている3人の工員」とラベルを貼られた色あせた写真の下でMecatol(訳者注:酒の名かカクテルの名だろう。実際にあるものか、架空の酒かは不明。工場を思わせる「メカ」と「アルコール」を合成した名のようにも思われる。)を飲んでいるのを見つけた。私が彼の傍のスツールに腰を下ろすと、彼は写真を指して、「この、こいつが俺だ」と言った。
私は横目でその写真を注視した。右の方の、12歳か13歳くらいの少年が、この老人の若いころかと思われた。どこにも似たところは無さそうだが、一度指摘されたら、その両者の鋭い鼻の形や平たい唇の形の類似は明らかに見てとれるだろう。明らかに、この老人はいつもここに座り、新来の客が入ってきたらいつも、「こいつが俺だ」と言っているのだろう。

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超訳「踊るドワーフ」#18

その居酒屋は古い古いところだった。それは私が生まれる前から、あの革命の前からその場所にあった。何世代も前から今まで製象職工たちはここで酒を飲み、トランプゲームをし、歌うためにそこにやってきた。壁には製象工場の古い写真が並んで貼られていた。その中には、初代社長が労働者たちの仕事を視察しているところとか、昔の銀幕の女王が工場を訪れた写真とか、夏のダンスパーティの写真とか、その類のものがいろいろあった。革命軍は、王や王室や、その他王党派のものと見なされる写真はすべて燃やしたのだ。当然、ここには革命の写真もあった。革命軍が工場を占拠し、管理人を縄で縛った写真などだ。


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超訳「踊るドワーフ」#17


終業のベルがなるとすぐに私はステージ6のエリアに行ったが、その老人の姿は無かった。ただ、二人の若い娘が床を拭き掃除しているだけだった。痩せた娘が私に、その老人はおそらく居酒屋に行ったと思う、と言った。古い方のね。実際、そこで私はその老人を見つけた。背中をまっすぐにしてバーに座り、弁当箱を傍に置いて飲んでいた。

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プロフィール

HN:
酔生夢人
性別:
男性
職業:
仙人
趣味:
考えること
自己紹介:
空を眺め、雲が往くのを眺め、風が吹くのを感じれば、
それだけで人生は生きるに値します。

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