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宮澤賢治詩集「春と修羅」序

この前、「独りファシズム」の中の「自分という現象」という言葉は宮澤賢治に由来するものではないか、と書いたが、それを自分の蔵書(今は数十冊しかない)で確認することはできなかった。
しかし、ネット時代は便利なもので、ネットの中にそれがあったので、転載しておく。

詩というものは人生の良き伴侶であり、あらゆる瞬間瞬間に、好きなフレーズを想起することで、平凡な人生も彩色される。だが、学校教育の中で、子供向けに選定されたつまらない詩にしか触れていない人は、詩はつまらないもの、と思い、また文学青年たちが振り回す難解な詩に触れた人は、詩とはわけのわからないもので、自分には詩は分からない、と思うようになる。

詩は、言葉の音楽であり、分析的に、意味的に理解する必要は無い。

宮澤賢治の詩など、意味的に理解しようとすれば難解だろうが、そのシュールなイメージと言葉の音楽を楽しめばいいのである。それは、下記の「春と修羅」序からも分かるだろう。

なお、宮澤賢治の童話も詩的イメージに満ちており、それが彼の作品の魅力である。
小学校の教科書によく載っている「やまなし」など、キラキラした水のイメージと、その中にいる謎の生き物たちの不思議な会話だけである。それを論理などで説明しようとする学校の先生など、ご苦労なものである。「クラムボンは笑ったよ」「クラムボンはかぷかぷ笑ったよ」「なぜ笑った」「知らない」のクラムボンが何か、などを追及させて、それは「泡」である、などと結論するなど、愚の骨頂だろう。しかし、理屈や合理性だけがすべてという学校教育の中では、そういう指導になるしかない。そして、詩や小説は分からない、下らないと思う人々を大量生産していくのである。



(以下引用)*活字の色付け、および一部の行分けは夢人による。








   序

 

  わたくしといふ現象は

  仮定された有機交流電燈の

  ひとつの青い照明です

  (あらゆる透明な幽霊の複合体)

  風景やみんなといつしよに

  せはしくせはしく明滅しながら

  いかにもたしかにともりつづける

  因果交流電燈の

  ひとつの青い照明です

  (ひかりはたもち、その電燈は失はれ)

   

  これらは二十二箇月の

  過去とかんずる方角から

  紙と鉱質インクをつらね

  (すべてわたくしと明滅し

   みんなが同時に感ずるもの)

  ここまでたもちつゞけられた

  かげとひかりのひとくさりづつ

  そのとほりの心象スケツチです

   

  これらについて人や銀河や修羅や海胆は

  宇宙塵をたべ、または空気や塩水を呼吸しながら

  それぞれ新鮮な本体論もかんがへませうが

  それらも畢竟こゝろのひとつの風物です

  たゞたしかに記録されたこれらのけしきは

  記録されたそのとほりのこのけしきで

  それが虚無ならば虚無自身がこのとほりで

  ある程度まではみんなに共通いたします

  (すべてがわたくしの中のみんなであるやうに

   みんなのおのおののなかのすべてですから)

   

  けれどもこれら新生代沖積世の

  巨大に明るい時間の集積のなかで

  正しくうつされた筈のこれらのことばが

  わづかその一点にも均しい明暗のうちに

    (あるひは修羅の十億年)

  すでにはやくもその組立や質を変じ

  しかもわたくしも印刷者も

  それを変らないとして感ずることは

  傾向としてはあり得ます


  けだしわれわれがわれわれの感官や

  風景や人物をかんずるやうに

  そしてたゞ共通に感ずるだけであるやうに

  記録や歴史、あるひは地史といふものも

  それのいろいろの論料(データ)といつしよに

  (因果の時空的制約のもとに)

  われわれがかんじてゐるのに過ぎません


  おそらくこれから二千年もたつたころは

  それ相当のちがつた地質学が流用され

  相当した証拠もまた次次過去から現出し

  みんなは二千年ぐらゐ前には

  青ぞらいつぱいの無色な孔雀が居たとおもひ

  新進の大学士たちは気圏のいちばんの上層

  きらびやかな氷窒素のあたりから

  すてきな化石を発堀したり

  あるひは白堊紀砂岩の層面に

  透明な人類の巨大な足跡を

  発見するかもしれません

   

  すべてこれらの命題は

  心象や時間それ自身の性質として

  第四次延長のなかで主張されます

 

     大正十三年一月廿日      宮 澤 賢 治









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酔生夢人
性別:
男性
職業:
仙人
趣味:
考えること
自己紹介:
空を眺め、雲が往くのを眺め、風が吹くのを感じれば、
それだけで人生は生きるに値します。

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