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安倍の闘争と政府の闘争

私は基本的に、何かの歴史的資料を封印することには反対である立場だが、幼児に大人の服用量の薬を飲ませると死ぬ危険があるように、ある種の本や芸術品は「毒性」もあるのであり、すべての人に公開していいかどうかは疑問ではある。

たとえば、私はよくドストエフスキーの作品中の言葉を引用するが、彼のキリスト教(ロシア正教)に関する思想はまったく理解できない。その一方で、「神の存在の否定」である、「カラマーゾフ兄弟」の「大審問官」の章(追記:これは私の完全な勘違い。神の存在否定論は、別の場所でのイヴァンの言葉であった。「罪なくして流された一粒の涙のゆえに、私は神の王国への入場券を謹んでお返しする」という言葉だ。つまり、神がこの世の不正を放置するような神であるならば、自分はそんな神は認めない、ということである。厳密には神の存在の否定ではなく、神を拒否する思想である。)は実に納得できる。この章で語られるイヴァンの思想は、キリストを肯定し、それに全的に従うべきだというドストエフスキー自身の考えに真っ向から対立するものであり、こういう見事な神の否定論を、キリストへの帰依を物語の主題とした小説の中に同時に書いているのがドストエフスキーの凄さである。

そして、ドストエフスキーを半端に読むと、たとえば「罪と罰」のラスコリニコフに共感して、「超人」が自分の立派な目的を達成するためには、無益有害な人間の命を奪ってもいい、という「目的は手段を正当化する」思想だけを受け入れたり、「カラマーゾフの兄弟」を読んで、「神が存在しなければ、すべては許される(何でもやっていい)」という言葉だけを信条とする人間も出てくる可能性もあるわけだ。

では、ドストエフスキーは禁書にすべきか、と言えば、まったくそんなことは無いのであり、彼の本を読む前と読んだ後では、脳そのものが変わるのであり、それを読まないままの人生と、読んだ後の人生では、人生の色彩も変わってくる。こうした偉大でもあり、危険でもある書物は人類の至宝と言うべきだろう。だが、多くの人にとっては無縁な書物である。
私の高校時代の担任教師は、「ドストエフスキーが理解できたら死んでもいい」と語ったが、その気持ちが今は多少理解できる。

では、「我が闘争」はどうか、と言えば、私には、ドストエフスキーほどの危険性も無い、と見る。あれを読んでユダヤ人抹殺すべし、という思想を持つ人間はいないだろう。そもそも、彼があの本で言うユダヤ人とは、第一次大戦でドイツを裏切り、他の欧州国家に資金援助をしたユダヤ人富豪を意味するのであり、ユダヤ人全体を国民の憎悪の対象にしたのは、単に「敵を作ることで味方を強固にする」という政治戦略の常套手段にすぎない。橋下徹などその典型である。ただし、私ははるか昔に「我が闘争」を流し読みしただけであり、ユダヤ人敵視思想以外に、あの本の中に危険な部分があるかどうかは、それをちゃんと読んだ人間の判断に任せたい。

麻生副総理が「ナチスに学べ」と言ったのは、ヒトラーの政治戦略に学べ、という意味であり、馬鹿がいくら「我が闘争」を読んでも、ちんぷんかんぷんであり、何の得にもならないだろう。麻生自身、「我が闘争」を読んだことがあるかどうか、怪しいものである。

「我が闘争」は、大学の政治学科での教材としては、むしろ必読書だろう。それが禁書とされている欧州のほうがおかしいのである。だが、自民党は「我が闘争」を公認したことで、ユダヤ人全体を敵に回したのかもしれない。最近の安倍総理のイスラエルとの接近と、この政府答弁書は逆行するものであり、穿った見方をすれば、良識的な高級官僚が、安倍の暴走にストップをかけるために、わざとこのような答弁をした、と考えることもできそうだ。もちろん、「教育勅語を教材としていいとするためには、こうしないと整合性が取れません」と言えば、安倍総理もこれに反対はできないわけである。




(以下引用)

「わが闘争」の教材使用可能=政府答弁書

時事通信 4/14(金) 19:59配信

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 政府は14日の持ち回り閣議で、ナチス・ドイツの独裁者ヒトラーの自伝的著書「わが闘争」の教材使用について、「教育基本法等の趣旨に従っていること等の留意事項を踏まえた有益適切なものである限り、校長や学校設置者の責任と判断で使用できる」とする答弁書を決定した。

 民進党の宮崎岳志氏の質問主意書に答えた。

 答弁書では、「同書の一部を引用した教材を使用して、執筆当時の歴史的な背景を考察させる授業が行われている例がある」と紹介。その上で、「仮に人種に基づく差別を助長させる形で使用するならば、同法等の趣旨に合致せず、不適切であることは明らかだ」と指摘し、そうした指導があった場合は「所轄庁や設置者において厳正に対処すべきものだ」としている。 



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