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《静岡の強豪私立・磐田東高に警察捜査》剣道部寮で凄惨いじめ「裸画像をメルカリ出品」「ビンタSNS動画」複数部員の喫煙、暴力を公表せず
剣道強豪校でいじめ
夏休みを間近に控えた7月13日、カメラや手帳を持った数名の男性が学校の寮や武道場を隈なく確認して回った。学びの場に似つかわしくないその男性らは静岡県・磐田警察署の現職の警察官だった──。【前後編の前編】 【写真】「体臭め~」メルカリに出品されたA君のスクリーンショット
警察による現場検証が行われていたのは、静岡県にある私立・磐田東高等学校(以下、磐田東高校)。多くのJリーガーやプロ野球選手を輩出しているスポーツ強豪校だ。NEWSポストセブンの取材で、全国選抜大会7年連続出場を誇る同校の剣道部内で凄惨ないじめが行われていたことがわかった。学校関係者が打ち明ける。 「今年3月末に行われた全国高等学校剣道選抜大会で、磐田東は男子団体出場が決まっていましたが、突如、辞退していたのです。学校側は辞退した理由を明らかにしていませんが、剣道部の寮での部員による喫煙、飲酒、暴力、いじめが原因でした。いじめが発覚したきっかけは、3月4日に寮生活をしていた剣道部1年生の男子生徒A君が学校へ登校せずに一時行方不明になったことでした」 A君が高校生活を送っていたのは、磐田東高校から車で10分ほどの距離にある剣道部の寮だった。40代の剣道部顧問は剣道六段、全国大会優勝経験者で同学校の教員をしている。顧問の所有する自宅が寮として使用され、顧問本人と寮母をつとめる妻は道を隔てた対面のアパートでほかの部員たちと生活していた。A君がいじめを受けた事件当時の寮内は、生徒のみが暮らす状況だった。 現在17歳でまだ表情にあどけなさが残るA君は関東圏内で生まれ育った。剣道歴は10年以上で、磐田東高校の剣道に憧れて昨年入学。入学と同時に生活を始めた寮の1階は食事をする場所で、2階には2部屋あり、2年生が広めの4人部屋で、1年生のA君は同級生と小部屋を2人で使用していた。
「いじめのきっかけはA君がテストで赤点を取ったことでした。剣道部には下級生の責任は上級生が取るという風習があり、赤字をとると連帯責任で上級生の部員が顧問から怒られます。それを機に同じ寮の別部屋に住む2年生のC、D、Eらを中心としたいじめが始まりました。深夜のコンビニやマックへの使いパシリが行われ、当初は代金を渡されていましたが徐々に後払いとなりました。 C、D、Eの3人は『立て替えておいて』と言って誤魔化し、『おまえ(A君)が払え』と代金を支払わなくなることが増えました。このパシリは、A君が失踪する今年3月まで毎日のように続いていましたが、こうした状態のなかある日、A君は同部屋だった同級生Bの財布に手をつけてしまったそうです」(前出・学校関係者) 取材班はA君本人に話を聞くことができた。 「去年の夏休み前のことでした。自分のお金が足りなくなり、許されることではないとわかっていましたが、つい魔が差してしまい同室の同級生Bの財布から2000円を盗ってしまいました。 Bはすぐに気づき、僕は『今はお金がないけど来月には返すから』と謝りました。すると彼に『誰にも言わないから、雑用をやってよ』と言われ、自分も先生や親にバレたくないという負い目から雑用を引き受けました。その日からBの洗濯とBが担当する際の食器洗い、週1回の部屋、風呂、トイレ掃除をすることになりました」 これが凄惨ないじめの始まりだった──。
発覚したいじめの数々
A君が洗濯物をベランダに干すためには、上級生の部屋を通らなければならなかった。A君の洗濯物が多いことを疑問に思った上級生数名がBに尋ね、A君とのトラブルを把握。すると、指導する立場だった2年生数名は、A君に対して、『(先生に)言われたくなかったら俺たちの雑用もやれ』と、脅すような口調で自分たちの雑用をA君に押し付けたのだった。上級生の部屋には剣道部の幹部生徒もいたが、それらの行為を黙認していたという。 それからA君は連日、深夜まで上級生へのマッサージや買い出しを強いられ、睡眠時間も削られていった。 「寮での雑用に時間を取られ、深夜には上級生や部の幹部生徒Fらのマッサージが待っていました。毎日買い出しにも行かされ、寝坊することも多くなっていました。稽古でも狙われ、2年生の別の幹部生徒Gの指示で稽古以外で真夏の公園を約1時、水分も摂れない状況で走り続けさせられました。その頃は稽古する余力もなくなり、事情を知らない顧問からは“さぼっている生徒”という烙印を押されていました。 そして寮母からも、上級生の買い出しで門限を破り、朝は寝坊をして食事当番をしない“問題児”というレッテルを張られていました」(前出・学校関係者) A君は早々にBに2000円を返金したが、いじめは収束するどころか、エスカレートしていった。当時の心境をA君は次のように打ち明ける。 「誰かに相談しようと思いましたが、いじめをしていた上級生にレギュラーもいたので、先生や学校は大会のために上級生を守るに違いないと、信用することはできませんでした。先生に言うことで、上級生から報復を受けるんじゃないかと考え、親にも自分がやましいこと(盗み)をしていたので、怖くて打ち明けることはできませんでした」 顧問不在の寮内は、さらなる無法地帯化が進んでいく──。昨年9月、遠征先のホテルでCとDはA君に女子部屋の前でパンツ一枚で騒ぐように指示して動画で撮影。翌月には上半身裸のA君の写真を使用し、不特定多数の人がアクセスするメルカリに投稿。悪ふざけのレベルを超え、上級生ら複数の部員が日常的にA君に暴力を振るっていた。こうしたいじめ動画について前出の学校関係者が打ち明ける。
「スパイダーマンのコスチュームをA君に着せて、死角からDが股間を殴る様子を別の生徒に撮影させていました。動画には痛みでうずくまるA君を嘲笑う複数の部員の声が残されています。さらに意味もなくA君の歯をスプーンで叩き、A君をビンタする様子をスロー加工した動画に『ぶん殴るぞじゃなくて それ殴ってます』というテロップを加えてSNSにアップするなど、悪びれる様子もなく暴力行為はエスカレートしていきました」 今年2月、A君は上級生らと寮の向かいのアパートに引っ越すことになった。A君は「解放されるかもしれない」と、僅かな希望を抱いていた……。 「それまでいた寮が女子部員専用となったため、引っ越すことになりました。『部屋割りも変わり、これで終わる』と思ったら、上級生から『やめるわけねぇじゃん』と言われて、いじめは悪化しました。 テスト前日には2~3回ほどタバコを買いに行けと言われ、言われた通りにコンビニでタバコを買って寮に戻ると、『吸うまで帰さない』と脅されました。無理やり吸わされ、頭がクラクラしてしましたが、立て続けに4本くらい吸わされました。吸わされたとはいえ、顧問の先生を裏切ってしまった罪悪感と恐怖で、もうここを逃げ出さなくてはいけないと思いました」(A君) A君はその日のうちに隠れながら荷物をまとめた。翌朝、学校とは別方向へと無我夢中で自転車を走らせた。 「コンビニで制服から私服に着替えて鞄もどこかに捨てて、A君は『とにかく学校や寮から離れたい』という一心でひたすら畑道をまっすぐ走ったそうです。その後A君は、数十キロ離れた所で学校から連絡を受けた親族によって見つかりました。保護されたA君は両親にこれまでのことを打ち明け、寮内でおきたいじめの数々を学校が知るところとなったのです」(前出・学校関係者) 後編では、緊急保護者会での様子や加害生徒からのコメントと学校から言い渡された処遇、学校の回答などを報じている。 (後編に続く)