王都の中央でエルベ河を横切る鉄橋の上から眺めると、シュロス、ガッセにまたがる王宮の窓が今宵は特にひかり輝いている。私も招待の数に入り、今日の舞踏会に招かれたので、眺めていると、アウグスツスの広小路に列をなした馬車の間をくぐり、今玄関に横付けした一両から出て来た貴婦人が、毛皮の肩掛けを随身に渡して車の中に隠させ、美しく結いあげた黄金色の髪と、まばゆいほどに白い襟元を露わにして、車の扉を開いた帯剣の護衛者を振り返りもせず入った後で、その乗った車はまだ動かず、次に待っている車もまだ寄らない間(ま)を計り、槍を手にして左右に並んだ熊毛兜(帽子)の近衛兵の前を過ぎ、赤い毛氈を一筋に敷いた大理石の階段を上った。階段の両側のところどころには、黄羅紗に緑と白の縁取りをした制服を着て、濃紫(こむらさき)の袴を穿(は)いた男がうなじを屈(かが)めて瞬きもしないで立っている。昔はここに立つ人がそれぞれ手燭を持つ習いだったが、今は廊下も階段も瓦斯灯を用いることになって、それは無くなった。階段の上の広間からは、古風を残した吊り燭台の黄蝋(ろう)の灯が遠く光の波を漲(みなぎ)らせ、数知れぬ勲章、肩章、女服の飾りなどを射て、祖先代々の油絵の肖像の間に挟まれた大鏡に照り返されている有様、言うのも今さらである。
PR