忍者ブログ

手紙配達者(文づかい)22

 入日は城門に近い木立から虹のように洩れ、そこに河霧が立ち添って、おぼろげになる頃塔を下ると、姫たちはメエルハイムの話を聞き終えて私たちを待ち受け、連れ立って、新たに灯を輝かせている食堂に入った。今宵はイイダ姫が昨日とは変わって楽し気にもてなしたので、メエルハイムの顔にも喜びの色が見えた。
 翌日、ムッチェンの方へ志してここを立った。

 * * * *

 秋の演習はこれから五日ほどで終わり、私たちの隊はドレスデンに帰ったので、私はゼエ・ストラアセにある館を訪ねて、先にフォン・ビュロウ伯の娘イイダ姫に誓ったことを果たそうとしたが、固(もと)より土地の習いとして、冬となって交際の時節が来ないうちは、このような貴人に逢うことは容易でなく、隊付きの士官などの常の訪問というのは、玄関の傍の一間に延引されて、名簿に筆を染めるだけなので、思うだけで訪問はせずに終わった。
 その年も隊務が忙しい中に暮れて、エルベ河上流の雪解けに蓮の葉のような氷塊が緑の波に漂う時、王宮の新年華々しく、足元が危うい蝋磨きの寄木床を踏み、国王の御前近く進んで、正服姿も麗しい立ち姿を拝し、それからふつか三日すぎて、国務大臣フォン・ファブリイス伯の夜会に招かれ、オーストリア、ババリア、北アメリカなどの公使の挨拶が終わって、人々が氷菓に匙を下ろす隙(ひま)を覗(うかが)い、伯爵夫人の傍へ歩み寄り、事の次第を手短に陳(の)べて、首尾好くイイダ姫の手紙を渡した。


拍手

PR

この記事にコメントする

Name
Title
Mail
URL
Comment
Pass
Pictgram
Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字

カレンダー

04 2024/05 06
S M T W T F S
10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31

カテゴリー

最新CM

プロフィール

HN:
酔生夢人
性別:
男性
職業:
仙人
趣味:
考えること
自己紹介:
空を眺め、雲が往くのを眺め、風が吹くのを感じれば、
それだけで人生は生きるに値します。

ブログ内検索

アーカイブ

カウンター

アクセス解析