もはや「後の祭り」ではないか。
山口県阿武町が新型コロナ対策の臨時特別給付金4630万円を誤って1世帯の男性(24)に振り込み、返還を求めている問題。本人が「金は海外のネットカジノ数社で全部使い切った。一銭も返せない」と、周囲に話していることが分かった。
これに対し、阿武町の花田憲彦町長は17日、「もし事実であれば許せないという気持ちは一般論としてある。本人がそう言ったというだけのこと。はい、そうですか。じゃあ、断念します。そういうことはまったく思っていない。回収に向けて全力を尽くしていきたい」とカンカンだった。
もとはと言えば町側のミス
誤送金された給付金は、コロナ禍で生活に困窮している世帯が対象だ。男性には差し押さえられるような財産もなくネットカジノの話が真実であれば回収は不可能だ。463世帯分を誤って振り込んだのは町側のミス。責任はどうなるのか。
町側が誤送金に気付いたのは4月8日の午前中。金融機関から連絡があり、初めて事態を把握した。その後、男性に返還するよう説得したが、男性は毎日のように別の銀行口座に送金を続け、約2週間でほぼ全額を引き出した。町がようやく男性の銀行口座を仮差し押さえしたのは、4月下旬のこと。町議会で提訴を可決したのは誤送金から1カ月以上が経った今月12日。町は弁護士費用など、486万円を“上乗せ”し、男性に約5116万円の支払いを求めていた。男性の説得にあたった中野貴夫副町長に話を聞いた。
「今後、お金の流れを解明、追及していきたい。男性は初めは素直に従っていたのですが、突然、態度が豹変して説得にも応じなくなった。誤って送金した職員の責任については? おいおい対応していきます。町としての責任? そこはまだ考えておりません」 一連の対応はお粗末としか言いようがないが、町や担当者の責任は問えないのか。「結果に納得できなければ、町民なら誰でも『住民監査請求』(地方自治法第242条)を起こすことができます」と弁護士の山口宏氏がこう続ける。「町長や職員に対して『あなたたちが損害分を補填してください』と請求できます。ただ最終的に判断するのは地方公共団体です。町長はいくらで、職員はいくらという具合に決めます。もちろん町長も職員も一切支払わないという決定もできます。最終決定が町民の意に沿わなければ、住民訴訟を提起できます。ただし勝訴したとしても、訴えた町民に金が返還されるのではなく、町長や職員が所属する地方公共団体にいくら支払えという判決になります」 給付金の原資は血税だ。町民だって町長同様、「はい、そうですか。じゃあ、断念します」というわけにはいかないだろう。