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手紙配達者(文づかい) 29

「メエルハイムはあなたの友人です。悪いと言えば、弁護もなさるでしょう。いいえ、私もその真っすぐな心を知り、顔立ちも優れているのを見る目が無いのではないが、長年つきあった末に、私の胸に埋もれ火ほどの温かみも出てこず、ただ厭うと増すのがあちらの親切で、両親の許した交際の表面上、腕を借(注:原文のまま)されることもあるが、ただ二人になった時は、家も庭園も、行く方も無く鬱陶しく思えて、思わずため息をついて頭が熱くなるほど耐えがたくなる。なぜと問いなさるな。それを誰が知りましょうか。人を恋するのも、恋するがゆえに恋すると聞いてます。嫌うのもまた同じでしょう」
 「ある時、父の機嫌が良いのを見て、自分の苦しさを言い出そうとしましたが、私の様子を見て半分も言わせず、『世に貴族と生まれた者は、卑賎な者のような我儘な振る舞いは思いもよらないことである。血統の権利の代償は人の権利である。私は老いてはいるが、人の情けを忘れたなどとは夢にも思うな。向かいの壁に掛けた私の母の絵姿を見なさい。心もあの顔のように厳格で、私に浮ついた心を起こさせなさらず、私も世の楽しみは失ったが、幾百年の間、卑しい血を一滴も混ぜることのなかった家の名誉は救った』といつもの軍人らしい言葉つきの荒々しさに似ない優しさに、前もってこう言おう、こう答えようと思っていた計画も、胸にたたんだまま、その計画を別の方向に変えることもできず、ただ心が弱くなって終わりました」
 「もともと父に向かっては返す言葉も知らない従順な母に、私の心を明かして何になろうか。しかし、貴族の家に生まれたと言っても私も人間です。父母がいまいましい門閥、血統への盲信の土くれと見破っては、私の胸の中に投げ入れるところがありません。卑しい恋に浮身をやつせば、姫御前の恥になりましょうが、この習慣の外に出ようとするのを誰が支えましょう。『カトリック』教の国には尼になる人があるとは言っても、ここ新教のザクセンではそれもかなわない。そうだ、あのローマの寺に等しく、礼を知って情けを知らない王宮こそ、私の墓穴だろう」


 夢人注:イイダ姫の言葉の敬体が途中から常体が増えるのは、途中からは激して相手への言葉ではなく自問自答になっているからだろう。その言葉の乱れこそが表現の妙だと思う。だいたいそのままに訳した。
 夢人注:「父母がいまいましい門閥、血統への盲信の土くれと見破っては、私の胸の中に投げ入れるところがありません。」とは、縁談問題に関しては父母はもはや考慮の外で、無に等しいということだろう。

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HN:
酔生夢人
性別:
男性
職業:
仙人
趣味:
考えること
自己紹介:
空を眺め、雲が往くのを眺め、風が吹くのを感じれば、
それだけで人生は生きるに値します。

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