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白鯨#9

第12章(後半)


「こいつは十六ドルもする奴だ。見えるか? スターバック君、あそこの槌を寄こせ」
スターバックから受け取った槌と釘で、エイハブはそのスペイン金貨を音高らかに大マストに打ち付けた。
「頭に皺の寄った、顎の曲がった真っ白な鯨を見つけた者には、この金貨をやるぞ!」
水夫たちは「万歳」の声を上げて熱狂した。かくいうこの私もその中の一人だったと白状しよう。十六ドル相当のスペイン金貨! 貧しい水夫には一財産である。
「船長、その白い鯨というのは、モゥビィ・ディックという奴ではないか?」
タシュテゴが言った。
「そうだ、タシュテゴ、お前奴を知っとるのか?」
「そいつの潮吹きの具合は、ちょっと妙な奴じゃあねえか」
ダグーが割り込む。
「そ、そいつ、銛が一杯刺さって、銛みんな曲がっている、違うか?」
クィークェグも、どもりながら言った。
「そうじゃ! そうじゃ! わしが探しているのはそいつじゃよ。わしのこの足を刈り取ったのは、あの悪魔めじゃ。わしはそいつを仕留めるまでは、生きていても仕方がない。みんな、わしの復讐に手を貸してくれるな?」
「そうだ、そうだ、忌々しい白鯨めをやっつけろ。モゥビィ・ディックをやっつけろ!」
水夫たちの熱狂をよそに、スターバックは一人、沈鬱な顔をしていた。
「エイハブ船長、僕は鯨を捕るためにこの船に乗ったのであり、あんたの復讐のために乗ったんじゃない。白鯨一頭倒して、何の儲けになります?」
意を決してスターバックは静かな調子でエイハブに言った。
「儲けじゃと? 損得勘定ではないわい。あいつを倒すまではわしは生きていないも同然じゃからじゃ」
「たかが畜生相手に復讐など、まともな人間の所業とは思えません」
「まあ聞け。お前らは損得などということで、物事を決めたがるがな、この世には損得よりも大事なものがあるんじゃ。そいつは頭などでは分からん。何のためにやるのか、やっている当人にすら分からんかもしれん。だが、それをやらにゃあならん事だけは分かるんじゃ。たとえそのために身を滅ぼそうともな。便々と生きながらえて炉端で居眠りしながら無事に死んでいくのもいいじゃろう。だが、やるべき事をやらなかった者には、本当の安眠は得られないのじゃ。さあ、議論などもういい。酒を持ってこい。皆の者に、前祝いに一杯ずつ振る舞うのじゃ!」
給仕の団子小僧がすっ飛んで行き、酒の器を持ってきた。狂熱的な雰囲気の中で酒が廻し飲みされ、水夫たちはエイハブ船長の白鯨への復讐に協力を誓ったのであった。















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酔生夢人
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男性
職業:
仙人
趣味:
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空を眺め、雲が往くのを眺め、風が吹くのを感じれば、
それだけで人生は生きるに値します。

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