第3章 クィークェグ
入ってきた男は、ベッドの中の私に気づかない様子で、何やらゴソゴソしている。私は、布団からそっと首を出して、男の様子を窺った。
神様! 助けてください!
私は心の中で叫んだ。
男は明らかに蛮人だった。剃り上げた頭の後方に、紐で結んだ長い辮髪が下がり、顔中まるでつぎはぎ細工のような入れ墨をしているではないか。
その野蛮人は、得体の知れない小さな木彫りの神像を暖炉の上に置いて、それに祈りを捧げている。その醜いちっぽけな神像の側に置いてあるのは、何と、人間の干し首である。
私はベッドの中でがたがた震えながら、この窮地からどのようにして抜け出したものかと必死に考えていた。だが、時遅く、その蛮人は、私のベッドに飛び込んできた。
第4章 救出
「助けてくれえ!」
私の悲鳴に驚いたのは、蛮人の方である。そいつは、ベッドの側に立てかけてあった捕鯨用の銛を掴むと、それを私に突きつけ、怒鳴った。
「お前、何者だ。うぬ、ここで何してる。言わぬと殺す!」
相手の凄い形相に、私は真っ青になって震えているばかりだったが、幸い、私の悲鳴を聞いて部屋に飛び込んできた主人が彼をなだめてくれた。
「これ、クィークェグ、やめなされ。こいつはお前のルームメイトじゃよ。お前、この人と同じベッドに寝る。分かったか?」
蛮人は事情を理解したのか、案外素直に頷いて、手真似でベッドの半分を私に明け渡し、自分はベッドの隅に身を寄せて目を閉じた。
私は、野蛮人と同じベッドで寝るのはいやだ、と主人に猛然と抗議をしたが、主人は笑って取り合わない。私は諦めて、クィークェグと呼ばれた褐色の男になるべく近づかないように、ベッドの隅に寄って寝ようと努めたのである。
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