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「意志と表象としての世界」の考察(8)

·        71節 いかなる無もなにか他のあるものとの関係において考えられる欠如的無であり、記号の交換が可能である。 意志の完全な否定に到達した人にとっては、われわれが 存在すると考えているものがじつは無であり、かの無こそじつは存在するものである。彼はいっさいの認識を超えて、主観も客観も存在しない地点に立つ。


 


·        生きようとする意志は、おのれを自由に肯定したり、あるいは自由に否定すると言われる。第三部までに考察されてきたような、意志が肯定された場合においては、この世界で「ある」ものが生ずる。これに対し、意志が否定された場合における、この世界で「ない」ものについては、最終的には哲学者は沈黙する他ないものといわれている。


·        抽象的知性は格律を与えることによって、その人間の行為を首尾一貫させるものではあっても、首尾一貫した悪人も存在しうるのであり、あくまでも意志の転換を成し遂げるのは、「汝はそれなり」という直覚的な知のみであるといわれる。この知に達して、マーヤーのヴェールを切断して、自他の区別(個体化の原理)を捨てた者は、同情 (Mitleid) ないし同苦(Mitleid)の段階に達する。このとき自由なもの(物自体)としての意志は自発的に再生を絶つのであり、ショーペンハウアーの聖者は、利己心・種族繁殖の否定に徹し、清貧・純潔・粗食に甘んじ、個体の死とともに解脱するとされている。


·        最終第71節では意志の無への転換が説かれている。意志の完全な消失は、意志に満たされている者にとっては無であるも、すでにこれを否定し、意志を転換し終えている者にとっては、これほどに現実的なわれわれの世界が、そのあらゆる太陽、銀河をふくめて無であるとし、これらのことが仏教徒における般若波羅蜜多、「一切の認識を超えた世界」であると結んである。




(考察)これで最後だが、補説が長い。その補説を(1)(2)(3)として考察する。あるいは補説ではなく、この章の要約の一部かもしれない。

第71節 「記号の交換が可能である」というのが分かりにくいが、後で書かれたことから推測すると、これは般若心経の「色即是空 空即是色」を意味しているのだろう。つまり、この世界のあらゆる物事は実在するとも考えられるし実在しないとも考えられる。簡単な話で言えば、この世界は、あなたという存在が消えても存在するわけだ。しかし、あなたが消えれば、「あなたにとってのこの世界」は存在しない。あなたが消えた後で、この世界が存在するかどうかはあなたには確かめようが無いのである。つまり、この世界を色(実在する現象)と見るか空と見るかはあなた次第なのだ。これが「記号の交換」だろう。あなたはこれまで世界を「+」と見ていたが、それを「-」と見てもいいのである。その反対も同じだ。

補説(1) 世界の実在性と「意志」が関係するかどうかは私には判断不能。まあ私からすればこの部分は「思弁的詭弁」に思える。詭弁というより言葉遊びか。

補説(2)「格律」は、私が前に読んだカントの本では「格率」と書かれていたと記憶するが、「格律」のほうがいい。つまり、道徳律である。ドイツ語の「ゾルレン」であり、英語の「shall」だろう。つまり「~べき」という命題だ。ザインが「~である」という命題。存在論はザインを論じ、倫理哲学は「ゾルレン」を論じる。
「自由なもの(物自体)」という言葉が理解困難。「物自体」という言葉に「自由なもの」という意味があるだろうか。おそらく、「表象」ではなく、本当に「それ自体」であるのが「物自体」だと思うが、それがなぜ「自由なもの」とされるのか。まあ、「他者の表象(他者の主観に縛られた存在)であることから自由である」ということなら理解は可能だろう。
「自他の区別」を捨てた存在は、それが「個体」である必要性は無いわけだから、「同情」や「同苦」が最高度のレベルになった人間(聖者)は自己を保存する理由も無くなる。だが、そこで「自発的に再生を絶つ」必要があるのか、と疑問に思うが、まあ、「再生の必要性」は無いという心境に至るとは言えるだろう。仏教でもキリスト教でも純潔は尊重されたが、それがなぜか、ということを論理的に考察した哲学者はほとんどいないと思う。その中ではショーペンハウエルの哲学はそこに踏み込んではいるとは思う。

補説(3)この節の考察の最初に書いた「色即是空 空即是色」で、東洋人には非常に親和的な思想だろう。ただし、西洋人にはこの思想は一般的に「虚無主義」とか「厭世主義」と見られるようだ。




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空を眺め、雲が往くのを眺め、風が吹くのを感じれば、
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