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古典の花園14 第二章9


 術(すべ)もなく苦しくあれば、「出で走り去(い)なな」と思(も)へど、
児らに障(さ)やりぬ。  (山上憶良)

 どうしようもなく苦しいので、家を捨てて逃げ去ろうかと思っても、子供らゆえに、それもできない、ということで、昔から「子は三界の首枷」と言われるように、子供らへの愛情は、行動の束縛にもなります。「銀も金も宝玉も、子供にまさる宝は無い」と詠んだ山上憶良のもう一つの面です。「去なな」は、動詞「去ぬ」の未然形の「去な」に上代の希望の終助詞「な」が付いたものです。

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古典の花園13 第二章8


 妹(いも)が見し、あふちの花は散りぬべし。
わが泣く涙、いまだ干なくに。 (山上憶良)

 「妹」は愛する女性のことで、ここでは亡くなった妻のこと。前半の文末の「~ぬべし。」は、完了の「ぬ」が強意で用いられたものに推量の「べし」が付いたもので、「きっと~だろう。」という意味になります。後半の文末の「~なくに。」は「~ないのに。」の意味。全体では、「亡くなった妻が見た楝(センダン)の花はまもなく散ってしまうだろう。妻を思って流す私の涙はまだ涸れないのに。」という意味になります。この歌は、上司である大伴旅人の妻の死を悼む歌で、憶良が旅人の立場で詠んだ歌です。

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古典の花園12 第二章7


 秋風や。むしりたがりし赤い花。  (一茶)

 「『さと女』三十五日墓」と前書きがあります。愛児さとの死後、墓前で詠んだ句でしょう。幼い子は花などをむしりたがるものですが、墓の前に揺れている赤い花を見ると、さとが生きていた頃、花をむしりたがったことをつい思い出してしまうのです。  

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古典の花園11 第二章6


 露の世は、露の世ながら、さりながら。 (一茶)

 一茶が愛児さとを一歳で失った時の句です。この世が露のようにはかない世の中であることは知っていたが、そうは言っても、ほとんど人生を経験することも無くあっという間に死んでいった我が子を思うと、その定めが恨めしくてならない、という、切々たる親心を表しています。

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古典の花園10 第二章4

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薮入りの、寝るや。ひとりの親の側。 (炭大祇)
 
 薮入りは、他家に奉公に行った子供が、年に二回実家に帰れるという風習です。その時には、親も子も別れていた間の寂しさを、その一日で埋め合わせようとしたことでしょう。これは川柳ではなく俳句ですが、この俳句のテーマを蕪村は『春風馬堤曲』という素晴らしい漢詩と俳句のコラージュによるシンフォニーにしています。そのラストが大祇のこの俳句なのですが、私などは、この大祇の句を見ただけで『春風馬堤曲』の最後を読んだ時の感動がこみあげて涙ぐんでしまいそうになるほどです。
 単独の俳句として見た場合、気がつくのは、「ひとりの」という言葉の利いていることです。親一人、子一人の家族でありながら、子供は奉公に出ていて会えない。それが一年に一度か二度だけ会えるのです。その喜びが、この「ひとりの」親の側で寝るという言葉でよくわかります。


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古典の花園9 第二章3


 拾はるる親は闇から手を合わせ。 (「柳多留」作者不詳)

 これは少し説明が必要でしょう。これは捨て子の話なのです。ですから、「拾はるる親」は、親が拾われたのではなく、「拾われた子の親」つまり子を捨てた親なのです。生活に困って子供を捨てたものの、子供が誰かに拾ってもらえるか不安で闇からそれを見守り、やっと拾ってくれた人に対して闇から手を合わせて拝んでいるのです。わずか17字で展開されるこうしたドラマが、日本の短詩形文学の特徴なのです。この、子を捨てた親を私たちは非難できるでしょうか。自分たちと一緒にいることの方が死につながると考えて、せめて子供だけは親切な人に拾われて幸せな人生を送ってほしいと思って捨てたのかもしれません。

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古典の花園9

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「一生のお願ひ」を母は聞き飽きる。 (「柳多留」作者不詳)

これは1の川柳と対をなす川柳です。息子は「一生のお願いだ」と頭を下げますが、母親にしてみれば、それは何度も聞いた言葉なのです。しかし、それをまた許してしまうのも母親ならではです。そして、1の川柳へと無限のサイクルが続くわけです。こうした甘い母親も現代では珍しくなった気がします。母親が子供を甘やかさなくなると、子供には逃げ場が無くなるでしょう。もちろん、甘やかすとは言っても、それは「世間様に済まないことをしてはいけない」という歯止めがあっての甘やかしです。とかく他人に対して厳しい現代社会の中で、せめて家庭だけでも安心して甘えられる場であってほしいものです。


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HN:
酔生夢人
性別:
男性
職業:
仙人
趣味:
考えること
自己紹介:
空を眺め、雲が往くのを眺め、風が吹くのを感じれば、
それだけで人生は生きるに値します。

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