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酒樽と花生け

土岐善麿の「鶯の卵」という新訳中国詩選を読んでいたら、解説部分に芭蕉のこういう俳句が書かれていて、これはまったく知らなかった句で、しかも酒飲みには好ましい句なので記録しておく。


のみ明(あけ)て花生(はないけ)にせん 二升樽    芭蕉


二升樽なら、酒豪ならば一晩でも飲みそうだ。土佐あたりだったか、酒量を問われた者が「しょうしょう飲みます」と言うのを聞いて、たいしたことはないのだろう、と思っていると、実は「升升」つまり二升は飲みますの意味だとか、何かで読んだ気もする。飲んで空にした小さな酒樽を花生けにする、というのが何とも風流である。



同書の中の杜甫の絶句の一つが何か気に入ったので、白文の漢詩を適当に書き下し文にしてみる。題名は書き下しではなく、いい加減な訳。たとえば「且」がどういう意味や働きだったか、漢文読解の基本事項すら忘れているのだが。


絶句漫興(そぞろ思いの絶句)

二月すでに破れ三月来(きた)る
漸(ようや)く老いて春に逢うこと能(よ)く幾回かある
身外無窮の事を思う莫(な)し
しばらく尽くせ生前有限の杯


「無窮」と「有限」の対比が面白い。自分を取り巻く無窮の世界のあれこれに頭を悩ますより、生きている間にこの有限の杯を飲もうではないか、という酒飲みの勝手な言い草である。


これは酒とは無関係の詩だが、常建の詩(破山寺後禅院)の一節、

山光悦鳥性
潭影空人心

などという一節を読むと、漢詩の表現力は素晴らしい、と思う。まさに、山中の木々の間に眠る潭(湖沼)を眺める時の人の心は「空」だろう、と思われる。「山光は鳥性を悦ばしめ、潭影は人心を空しうす」。言うまでもなく、「光」と「影」の対比がこの対句にはある。






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酔生夢人
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男性
職業:
仙人
趣味:
考えること
自己紹介:
空を眺め、雲が往くのを眺め、風が吹くのを感じれば、
それだけで人生は生きるに値します。

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