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菩提樹

とあるブログからシューベルトの「菩提樹」の歌詞を引用する。
と言うのは、先ほど言及した「子供たち」の中に、金原瑞人の訳だと「リンデンの木」という言葉が出てきて、非常な違和感を抱いたからである。これは明らかに「菩提樹」だろう、と私は思ったのだが、私より若い世代の人には「菩提樹」という名前は耳慣れないのだろうか。

(以下引用)詩中の「ゆかし言葉」は、私の記憶では「愛の言葉」だったが、記憶違いか、それとも、そういうヴァージョンもあるのだろうか。

わたしにとって、そこで歌われているシューベルトの菩提樹の歌詞の意味が以前から少し謎であった。ここではWEB上で渉猟し検索したものを挙げてみる。はなはだ勝手なことをして、ここまで資料をまとめられた関係者の皆様方、ごめんなさい、そして大変ありがとう。
 わたしの仕事に引きつけて言うならば、菩提樹は日本の中部地方や東北・北海道ほかの山野にあるシナノキの仲間、インドのお釈迦さまの説話に出てくる菩提樹と科が別物である。
 これは都市のオープンスペースや都市近郊ではあまり見かけない樹木である。樹形は円錐形から広卵形で自然に整形を保つ、落葉高木。大径木になる高木性で、ケヤキやサクラと同じく庭木としてはふさわしくない。この樹木は、都内文京区小石川の東大植物園に植樹した樹林がある。

 原語はドイツ語であるが、上段は直訳で詩の文であり、下は日本語訳でよく見聞きする歌詞であるが、近藤朔風さんの名訳とされているもの、その曰くも転載する。
 
Winterreise D 911
Liederzyklus nach Gedichten von Wilhelm Müller
--冬の旅-- ヴィルヘルム・ミュラーの詩による連作歌曲集
5. Der Lindenbaum 菩提樹

Am Brunnen vor dem Tore, 市門の前の 泉の側、
Da steht ein Lindenbaum, そこに一本の菩提樹が立っている。
Ich träumt' in seinem Schatten 僕はその木陰で見たものだった、
So manchen süßen Traum. とてもたくさんの甘い夢を。

Ich schnitt in seine Rinde 僕はその皮に刻み込んだ、
So manches liebe Wort; とてもたくさんの愛の言葉を。
Es zog in Freud' und Leide 嬉しい時も悲しい時も
Zu ihm mich immer fort. 僕はいつもその樹に惹かれていった。

Ich mußt' auch heute wandern 僕は今日も木の側を通って
Vorbei in tiefer Nacht, 真夜中に旅立たなければならなかった。
Da hab' ich noch im Dunkeln その時、僕は真っ暗闇にもかかわらず
Die Augen zugemacht. 目を閉じてみた。

Und seine Zweige rauschten, するとその枝たちがざわめいた、
Als riefen sie mir zu: まるで僕に呼びかけるように。
Komm her zu mir, Geselle, 「こっちへ来なさい、友よ、
Hier findst du deine Ruh'. ここにあなたの安らぎがあります」

Die kalten Winde bliesen 冷たい風が僕の顔に向かって
Mir grad' ins Angesicht, 正面から吹いてきた。
Der Hut flog mir vom Kopfe, 帽子が僕の頭から飛んでいっても、
Ich wendete mich nicht. 僕は振り返りはしなかった。

Nun bin ich manche Stunde いま 僕は何時間も
Entfernt von jenem Ort, あの場所から離れたはず。
Und immer hör' ich's rauschen: けれど僕にはずっとざわめきが聞こえたままだ
Du fändest Ruhe dort! 「あなたはここで安らぎを得られたのに!」

1.
泉にそひて、繁る菩提樹、慕ひ往きては、
美(うま)し夢みつ、幹には彫(ゑ)りぬ、ゆかし言葉、
嬉悲(うれしかなし)に、訪(と)ひしそのかげ。

2.
今日も過ぎりぬ、暗き小夜なか、眞闇に立ちて、
眼(まなこ)とづれば、枝は戦(そよ)ぎて、語るごとし、
来(こ)よいとし侶(とも)、こゝに幸あり。

3.
面をかすめて、吹く風寒く、笠は飛べども、
棄てゝ急ぎぬ、遙(はるか)離(さか)りて、佇まへば、
なほも聴こゆる、こゝに幸あり。


泉に添いて 茂る菩提樹
したいゆきては うまし夢見つ
みきには彫(え)りぬ ゆかし言葉
うれし悲しに といしそのかげ

今日もよぎりぬ 暗きさよなか
まやみに立ちて まなこ閉ずれば
枝はそよぎて 語るごとし
来よいとし友 此処に幸(さち)あり

おもをかすめて 吹く風寒く
笠は飛べども 捨てて急ぎぬ
はるかさかりて たたずまえば
なおもきこゆる 此処に幸あり
此処に幸あり

 詞は明治時代の訳詞家近藤朔風(さくふう:1880-1915)の手になる。「菩提樹」「ローレライ」「野薔薇」などの訳詞はあまりにも有名ですが、35歳余りで早世したこともあり、その業績も上記の数曲を除き遠い過去のものになってしまっているようです。『雀の子』のように、クラシック歌曲の日本語化は原詩と関係ない替え歌であった時代に、原詩に沿った訳詞を試み、その後100年も歌い継がれている名訳を残した朔風の偉大さは忘れられてはならないでしょう。
 楽譜により歌詞や漢字と仮名の使い分けなど異同がかなりあります。そこで今回、国会図書館で生前の出版譜(明治43年『女聲唱歌』)を参照して来ました。朔風自身が眼を通した一次資料としてまずは決定的と言って良いのではと思います。

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空を眺め、雲が往くのを眺め、風が吹くのを感じれば、
それだけで人生は生きるに値します。

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