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「東は東 西は西」

長文の引用は「ジム佐伯のEnglish Maxims」というブログから転載。
私も、この「東は東、西は西」は、東西の融和は永遠に不可能だ、という意味だとばかり思い込んでいた。しかし、昨日読んだ「子供たち」というキプリングの短編小説(一種の幽霊話だが、近隣で亡くなった子供たちが、未婚だが子供好きの生まれつき盲目の女性を訪れ、心を慰める話である。)の中に、あらすじとは関係ないが次のような言葉があって、キプリングというのが大英帝国主義の象徴的作家だというのは違うのではないか、と考えて、「東は東」について調べて、佐伯氏のブログを知ったわけだ。下の文の赤字は夢人による強調。東西摩擦、東西相克のすべての過因はここにあるようだ。そして、教育は支配層がその内容を決めるのである。

「遺伝的であるばかりか、教育の中にまで仕組まれたキリスト教徒の残酷さに比べれば、アフリカ西海岸の異教徒の黒人のほうが、清く節操がある。」(話の語り手の男性の想念)

(以下転載)



今日の言葉は、キプリングの有名な詩『東と西のバラード(The Ballad of East and West)』に出てきます。1898年に書かれたものですから、キプリングがインドを出て世界を旅した時期にあたります。

“Oh, East is East and West is West, and never the twain shall meet.”
「おお、東は東、西は西、そして両者はけっして会うことがないだろう。」

これだけ読むと、東洋と西洋の道は決して交わらないのだ。理解し合うことはないのだとも解釈できます。キプリングはトルコを旅行中にイスタンブールのボスポラス海峡のほとりに立ってこの詩を歌ったと言われています。この詩が西洋人が東洋を見る深層心理に今でも大きな影響を及ぼしているのではないかという説もあります。日本でも有名な詩で、東西両文明の異質さを歌ったものという共通の認識があるとされます。
実際、この詩は東洋蔑視や東西断絶の象徴として数多く引用されました。



しかし、この言葉には続きがあります。

“Oh, East is East and West is West, and never the twain shall meet,
Till Earth and Sky stand presently at God's great Judgment Seat;
But there is neither East nor West, Border, nor Breed, nor Birth,
When two strong men stand face to face, tho' they come from the ends of the earth!”


「おお、東は東、西は西、両者はけっしてまみえることがないだろう。
 神の偉大な審判の席に天地が並んで立つまでは。
 しかし東もなければ西もない。国境も、種族も、素性もない。
 二人の強い男が面と向かって立つときは。たとえ両者が地球の両端から来たとしても。」


前半の二行は読んだ通りです。でも後半の二行が難しい。
意味がわかりやすくなるように並べ換えてみます。

「しかし二人の強い男が面と向かって立つときは、東もなければ西もない。
 国境も、種族も、素性もない。たとえ両者が地球の両端から来たのだとしても。」

そう。これは東西の理解が可能であることを書いてあるのです。
『東と西のバラード』では、この四行の詩の後に長い物語が続きます。カマルというインド人と守備隊長の大佐の息子の確執と和解をテーマにしたものです。
そして物語の最後に、冒頭と同じ四行詩がリフレインされて終わるのです。




【2016年1月7日追記】
キプリングのこの詩は、日露戦争の直前にイギリスと日本で結ばれた日英同盟(Anglo-Japanese Alliance)を描いた風刺漫画にも引用されています。イギリスの風刺漫画雑誌「パンチ(Punch)」に掲載された漫画には絵柄や詩の引用を見る限り風刺や皮肉の意図はなく、同盟に好意的に描かれています。

 Punch Anglo-Japanese Alliance.jpg
イギリスの風刺漫画雑誌「パンチ(Punch)」に描かれた日英同盟
(1905年10月、日露戦争は既に終わっていた)
By A scan of a cartoon from The New Punch Library volume 1, page 44, published in London in 1932. First published on 4 October 1905., PD-USLink
 “Oh, East is East, and West is West...
 But there is there is neither East nor West, Border, nor Breed, nor Birth,
 When two strong men stand face to face, tho' they come from the ends of the earth!”
  ― Rudyard Kipling.


 おお、東は東、西は西...
 しかし東もなければ西もない。国境も、種族も、素性もない。
 二人の強い男が面と向かって立つときは。たとえ両者が地球の両端から来たとしても。
  ― ラドヤード・キプリング




【2016年1月7日追記】
これ、僕のつたない訳よりもずっといい訳が見つかりましたので引用します。
ああ、東は東、西は西、両者が出会うことはない、
地と天がやがて神の大いなる裁きの庭に立つ日までは。
だが、東も西もなく、国境も、民族も、生まれもない、
二人の強き男たちが相対するときは、
たとえそれぞれ地の果てからこようとも!
 ―ラドヤード・キプリング『西と東の歌』

(『太平洋の試練 真珠湾からミッドウェイまで(上)』 イアン・トール・著 村上和久・訳 文芸春秋・刊)

太平洋の試練 真珠湾からミッドウェイまで 上 (文春文庫)


“East is east, west is west.”
東は東、西は西。

そうですね。キプリングの詩のように、確かに東と西は違います。
しかし、キプリングの詩の続きのように、東西の理解は可能なのです。
今でも違いを感じることは多々あります。しかし希望を捨てずに相互理解につとめましょう。
1907年、キプリングはノーベル文学賞を受賞しました。史上最年少の41歳でした。

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空を眺め、雲が往くのを眺め、風が吹くのを感じれば、
それだけで人生は生きるに値します。

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