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人によって言を排せず

安倍元総理の「新型コロナを2類から5類に」発言について私は「人によって言を排せず」だと書いたが、寝床の中でうつらうつらと、これを英訳したらどうなるかなあ、と考えてみた。もちろん、元の言葉の簡潔さは失われたグダグダした文章になるだろうが、現代の若者などだと、もしもこれが大学入試の和文英訳問題として出されたら、頭を悩ますのではないか。そもそも、もとの「人によって言を排せず」という文章が理解できない、という「現代人」も多そうだ。古文や漢文を不要だとか言って、真面目にやっていない若者などは特にそうだろう。だが、古文も漢文も日本語の一部だからこそセンター試験国語に入っているのである。それを軽視したら「日本語の不自由な日本人」になるわけだ。
で、そこから、この前ネットテレビで見た(もう何度も見ているが)「フルメタルジャケット」で、snow ballが相変わらず「白雪丸」と訳されていたのを思い出して、なぜこの変な訳が今でも延命しているのかな、という考えが頭に浮かんだのだが、普通は「雪玉」で十分だろう。黒人をそう呼ぶことで罵言になっているわけだ。それをわざわざ「白雪丸」という変な訳をしたのは、おそらく訳者に「白雪姫」という言葉が頭にあったからだろう。ならば、それを再英訳したら、snow ballではなく、「snow prince」になったと思うが、それで監督のキューブリックは納得したのだろうか。(キューブリックは自作の外国語訳の再英訳を見て、OKかどうか判断したらしい)
ちなみに、この映画の中で訓練教官のハートマン軍曹が新兵たちに罵言の嵐を浴びせるのは、それによって「女々しい精神」を叩き出し、「完全装甲弾」に鍛え上げるためだろうが、最初に見た時はそれが分からず、なぜこの教官は卑語猥語罵言しか口から出さないのか、と不思議に思ったものである。新兵の中にはこの罵言の嵐で(それだけのせいではないが)精神を病む者も出てきて、あの惨事が起こるわけだ。
最初の話に戻るが、森鴎外に倣って、元の文「人によって言を排せず」の表面的な単語や構文にこだわらず、文意を中心として英訳するなら、こういう訳はどうか、と思うが、私が英語が苦手なことは言うまでもない。中学生の平均レベルだろうから、出来ではなく、その意を壮としてほしい。

Who said that is not important, what was said is important.

まあ、元の文の漢文口調の簡潔さには当然及ばない。


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