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「論理」の陥穽となる「先入観」

今、東の空に月が見える。月の出からまだ1時間くらいだろう。
と書いて、今が何時くらいの時刻か分かる人がいるだろうか。

答えは、午前4時少し前だ。というのは、今は旧暦で10月26日、月の出がかなり遅いからである。
最初の二文を読んで、「答えが分かるはずがない。月の出の時刻は毎日変わるのだから」と考えた人は、小学生程度の知識、あるいは常識がある人で、それ以外の人は実はその程度の知識もないわけだ。それで世界の政治を論じて悲憤慷慨したりするわけである。
まあ、月の出の時刻と世界政治は無関係だ、と思うのはもっともではあるが、私が言いたいのは、「情報の誤りには二種類ある」ということで、ひとつはもちろん情報自体の誤りだが、もうひとつは受け手の誤解である。この後者が実は非常に多いのではないか。

などと書いたのは、先ほどまで寝床で読んでいた、ジョン・スラデックの「見えないグリーン」という推理小説の中に出て来る小話に感心したからである。小話と言っても、「推理パズル」である。その話の前に脇道に逸れるが、この「見えないグリーン」とは、ゴルフかゴルフ場が話の中心だろう、と思った人は、「情報の受け手の誤解」を既に犯している。まあ、私もまだ半分くらいしか読んでいないので、この先にゴルフの話が中心になるかもしれないが。
ついでに言えば、この「見えないグリーン」は、確か、誰か高名な推理小説家の選んだ、「世界傑作推理小説」のベストファイブか何かに入っていたと思うが、あまり話題になることのない作品だと思う。作者のスラデック自身、他に有名作品は書いていないのではないか。

さて、本題だ。次のパズルを読んで、答えを考えてみてほしい。先に言っておけば、解答は完全に論理的である。逆に、「論理的思考」を標榜する人間ほど、混迷に陥る可能性もある。


「判事とモデルが、とある丘をのぼって、また降りてくる自転車の競争をすることになりました。何人かの胴元が優劣を話し合っているのを、ある賭け事師が立ち聞きしました。
『判事は登り坂でモデルよりも時速1マイルは早く走れる』
『そりゃそうだが、彼女は下り坂では彼よりも十パーセント早く走れるぞ』
『上り坂の距離も、二人の速度も誰にもわかってない』
『そんなことは問題じゃない。勝負ははっきりしている』
これを聞いて、胴元というのは常に情報通の正直な連中だと知っていたので、その賭け事師は、自分のお金をーーー誰に賭けたでしょう?」(真野明裕訳)*私なら「早い」は「速い」と書く。












ちなみに私は「判事」だと考えたが、その根拠は、判事とは英語でjudge、つまり「審判員」でもあり、勝負事で勝負の決定権(判定権)を持つジャッジが勝つのは当然だ、というアホな判断である。答えは、そんなものではなく、完全に論理的なものである。

解答は、行空きした、その後に書くが、少しは自分の頭で考えてほしい。





















さて、誰でも思うのが、なぜ「判事」と「モデル」の勝負なのか、ということで、しかし、そこから正解にまで至る人は少ないのではないか。
これは、「判事=男」「モデル=女」という固定観念を利用したトリックで、実は「判事は女で、モデルは男性モデルだった」という話なのである。
すると、上り坂では判事が勝ち、下り坂でも「彼女」つまり判事が勝つのだから、「勝負ははっきりしている」わけだ。
なまじ、数学的に考える「論理的な」人間は、「前提の与えられない情報は無意味である」ことをあまり意識していないのではないか。たとえば「1は100より大きい」というのは、1の単位が㎞で、100の単位がmなら、正しいわけだ。こうした「前提無しの数的情報は無意味」というのは、統計詐欺などで使われる。
この小話の副次的トリック、あるいは詐欺的部分は、実は「そりゃそうだが」という言葉にある。この言葉は、自動的に読者を、「前の言葉への反論」だと思い込ませ、判事と「彼女」は対立存在だと思い込ませるのである。この部分に関しては、少し悪質な「叙述トリック」だと言えるが、全体的にはフェアだと私は思う。



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空を眺め、雲が往くのを眺め、風が吹くのを感じれば、
それだけで人生は生きるに値します。

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