- 地球の地軸(地球が自転する際の軸)が地表と接する点は地理極(北極点と南極点)だ。
- 地軸の傾きは地表の質量配分の影響を受けて変化していて、これに伴って南北の地理極も移動する。
- 近年の氷河の融解は、この質量配分を変化させており、その影響は地軸の動く方向が変わるほど大きいことが、研究で明らかになっている。
1980年以降、地球の地理極(北極点と南極点)は、約4メートル移動してきた。
ここで言う地理極とは、地軸(地球の中央を貫き、自転する際の軸となる目に見えない直線)と、地球の表面が交わる点のことだ。ただし、地理極の地理的な位置は固定されておらず、地軸が動けば、それに伴って地理極も移動する。
2021年3月に発表された研究で、1995年に地軸が急激に移動し始め、これに伴って地理極の移動スピードが上昇し、移動する方向もそれまでと違っていることが判明した。この研究チームによると、こうした変化を引き起こしたのは氷河の融解だという。
氷河の融解が、地球の質量配分に影響
「このような傾向を引き起こした主因は、グリーンランドの氷床をはじめとした世界中の多くの氷河で継続的に起きている質量変化だ」と説明するのは、アメリカ航空宇宙局(NASA)ジェット推進研究所に所属する地球科学者、スレンドラ・アディカリ(Surendra Adhikari)だ。
アディカリ氏は、2021年3月の研究には関与していないが、この現象に関するInsiderの取材に応じてくれた。
数千年分のデータを平均すると、地軸は一定の方向、すなわち「ポラリス(Polaris)」とも呼ばれる北極星(こぐま座α星)の方向を指している。しかし、天文学者たちはすぐに、地軸が常にこの方向を指しているわけではないことに気がついた。時には、地軸は別の星を指したり、よろめくような動きを見せたりするが、その後また北極星の方を向くようになるという。
科学者の研究で、地球の地理極が太陽の周囲を回る公転面との角度を一定に保ちながらも、よろめくように移動することが判明しているとアディカリは述べた。
地球自体の内部も、不変ではない。熱で溶けた状態の核は流動的に移動し、そのエネルギーも変化する。また、表面に近い地殻も、その下にあるマントルなどの影響を受けて、縮んだり膨張したりする。
地球を、回っているコマのようなものだと考えてみてほしい。この質量が均等に配分されていれば、コマは左右によろめくことなく、完璧に回り続けるだろう。だが、質量の一部がどちらかの側に移動すると、コマの重心や回転軸が変化し、回りながら重い側に傾いていく。
質量が、ある場所から別の場所へと移動した際には、地球にも、このコマと同じことが起きる。
時に、地球の「外核」にある液体層(溶けた岩)の配分が変わると、地球全体の質量配分にも変化が及ぶことがある。また、地球表面における水の配分も、大きな役割を果たす。
気候変動によって、地球の南北両極の周辺で大量の氷河が融解し、その結果として、氷が溶けて生まれた水が海に流れ込むと、この水の質量は、これまであった場所とは違う地域に広がっていくことになる。
質量配分におけるこうした変化が、この数十年間に観測されている地理極のずれを引き起こした主因だと前述の2021年の研究は主張している。
地理極がずれ始めたのは、1995年前後のことだった。衛星データを見る限り、1990年代半ばまでは、地理極はゆっくりと南の方向へと向かっていた。
しかし1995年頃からは、地理極は左側に向きを変えた。そして、1年あたり約3.3ミリメートルという、これまでよりも速いスピードで東の方向に向かっているという。また、1995年から2020年にかけての地理極移動の平均速度は、1981年から1995年までと比べて17倍の速さになっていたことも、2021年の研究で判明している。
気候変動で氷が急速に融解、地理極の動きも加速
こうした地理極の移動スピードの加速は、南北両極付近において、氷河などの陸氷が急速に溶け出したのと同時期に起きている。後者は、地球の地表や海水の温度が上昇したことにより発生している現象だ。
グリーンランドでは1992年以降、4.2兆トン以上の氷が消失し、これにより全世界の海面は約1センチ上昇した。しかも、この氷が溶けるペースは、1990年代には年間360億トンだったものが、ここ10年では年間2800億トンと7倍にまで上昇している。
加えて、南極の氷河の融解も加速している。1980年代当時、南極から1年間に失われた氷の量は400億トンだった。しかしここ10年で見ると、この数字は年間2520億トンにまで跳ね上がっている。
2021年の研究によれば、地下水の貯水量に起きた変化も、地理極の移動に影響を与えるという。人間が、飲料水や農業用水として使用するために、地下水を地表にくみ上げると、この水はその後、川や海に流れ込み、地表にある水の質量配分が変化する。
ガーディアンの報道によれば、1950年代以降、くみ上げられた地下水の量は20兆トン近くに達するという。
地軸は、各地域の気候からも多少の影響を受ける
そもそも、地軸は常に安定しているわけではない。1年のスパンで見ると、小刻みに揺れるような動きを見せることもある。
こうした小刻みな揺れは、この数十年に「地球上で起きたすべての事柄」から総合的な影響を受けていると、アディカリ氏は解説する。そのため、地軸の大幅なずれが起きたとしても、それが何によって引き起こされたか、正確に突き止めることは難しい。
2016年に発表された論文で、アディカリをはじめとする研究チームは、小刻みな内在的変動の原因として、豪雨や干ばつがあることを突き止めた。たっぷりと水を含んだ土壌は非常に重くなる一方で、極端な干ばつが起きると土壌が非常に軽くなることがある。こうした現象が、地軸をわずかに動かすこともあるという。
「2023年は今のところ、幸いなことにカリフォルニアには多くの雨が降っている。過去かなりの年数にわたって非常に乾燥した時期が続いたことを考えると、これは好ましいことだ」と、2023年3月に行われたインタビューで、アディカリは述べた。
「水の質量配分パターンに基づくこうした概念を広く世界全体に適用すると、これが地球の回転に及ぼす影響を見て取ることができるだろう」
1日が少しだけ長くなっている可能性も
地球の地軸は、水星や木星と違って、公転面に対して直交しておらず、23.5度傾いている。地球の北半球と南半球が、1年の時期によって1日あたりの日照時間が異なるのはこれが理由であり、四季もこれに由来している。
近年地軸に起きている変化が、我々の日常生活に影響を与えることはないだろうが、1日の長さがほんのわずかだけ変わる可能性はある。
地球が1回自転するには、24時間弱かかる。しかし、地軸の移動と、それに伴う地理極の移動によって、この自転にかかる時間が数ミリ秒長くなっており、我々が過ごす1日が、ほんの少し長くなっている可能性があるという。
それでも、慌てふためく必要はないとアディカリは言う。
「地軸の変化が及ぼす影響は、本当に微々たるものだ」
「厳密に言えば、地球が太陽から受ける日射量などによる影響もあるはずだ。しかし、この点は明確にしておきたいのだが、これは、ごくごくわずかな影響にすぎない」