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夏の聖なるチルダイ

小田嶋隆の「ア・ピース・オブ・警句」から一部転載。
彼の分析力の素晴らしさについては何度か書いてあるので、今更言わない。しかし、夏は遊ぶべき季節、怠けるべき季節であったという指摘はやはり素晴らしい。
これを敷衍すれば、夜は休むべき時間、寝るべき時間であったのに、電気をコウコウと(どんな漢字だったか忘れた)輝かせて、起きている時間にしているのも、人間の内部の自然に逆らう行為だろう。
つまり、文明は「便利と効率」を与えたが、それは人を労働に駆り立てるだけで、少しも幸福にはしていないのである。現代人で幸せな顔をしているのは、多幸症という精神病患者くらいだろう。テレビで笑い転げているタレントたちも、収録が終わればむっつりしているに決まっている

原発事故は、我々の文明の、この反自然性を見直すきっかけになるかもしれない。反自然性は人間の不幸の原因にもなっているのだから、その見直しは必要だろう。

夏の暑さは我々を「チルダイ」させる。チルダイとは、沖縄方言でぼうっとした気分、だらけた気分のことである。しかし、そのチルダイが気持ちがいい、というのが夏という季節の特色だ。だから、昔、沖縄演劇のポスターで「聖なるチルダイ」というキャッチコピーを見た時、実にうまい表現だと感心した。(ただし、私は沖縄県民だが、沖縄方言には詳しくないので、嘘を書いている可能性もある。一知半解は私のブログの特徴なので、にわかに信じないように)


(以下引用)


 秘密はここにある。
 子供の頃はあんなに大好きだった夏が、大人になってから憂鬱な季節になってしまっている理由のうちの大きな部分は、実は「生産性」という言葉の中にある。私はそうにらんでいる。

 この一週間、私は、当面の仕事を投げ出して、ただ暑さに身を任せていた。
 と、働かない男にとって、猛暑日の暑さと真昼のダルさは、案外にフィットするのである。確かに、肉体は暑さに参っている。でも、精神はかえってのびのびとしている。そんな気がするのだ。

 こじつけのように聞こえるかもしれないが、私は、夏がイヤな季節になったのは、実は冷房装置のせいだと思い始めている。
 エアコンディショナーというものがなかった時代、われわれは、夏を「しのぐ」という形で、暑さに対応していた。
 「しのぐ」方法は、細かく拾い上げれば、手法としては山ほどある。
 が、根本は、「生産性を落とす」ことだ。
 最も暑い季節の一番しのぎにくい時間帯は、いろいろなことをあきらめる――これが、夏を「しのぐ」際の基本姿勢だ。といって、夏をやり過ごすことに関して、特段に目新しい決意やコンセンサスを持つ必要はない。真夏の暑さの中に置かれたら、人間は、誰であれ、生存以外のほとんどのことをあきらめざるを得ない。われわれは、生物学的にそういうふうにできているのだ。

 だから、昭和の半ばごろまで、夏の間、日本の産業界の生産性は、明らかに低下していたはずだ。
 それが、エアコンという文明の利器を得て以来、事情が変わる。
 エアコンは、「温度を下げる」というあらためて考えてみれば、とんでもなく強引な方法で、夏をねじ伏せてしまう機械だ。
 と、少なくともエアコンの冷房能力が及ぶ範囲にいる限り、夏は、事実上消滅する。
 と、冷房された部屋の中では、生産性が維持される。
 冷気を維持するためのコストと、生産性の低下を防ぐことによって得られるメリットを比べてみて、メリットの方が大きいということになれば、オフィスを運営している人々は当然、エアコンを導入する決意を固める。かくして、日本の夏は、少なくとも働く現場からは駆逐されたわけだ。コガタアカイエカや、日本住血吸虫がほぼ根絶やしにされたみたいに。文明の力で。

 素晴らしい達成だと思う。
 科学の勝利。あるいは文明の凱歌だ。
 とはいえ、われわれが、有史以来数千年間にわたって、夏を生産性の低下によってやり過ごしてきた国の国民であるという事実を軽視してはならない。われわれは、この何千年かの間、夏の間は、ほぼ無力化していたのである。そういう気分なり季節感が、わたしたちのDNAの中には、刻まれているはずなのだ。

 エアコンの助けを借りて、夏を抑えこむことによって得られるメリットは当然、素晴らしく大きい。が、一方には、必ずデメリットも発生している。で、そのデメリットの一つが、この国の大人の間に蔓延している「サマータイムブルース」だと私は考えるのである。
 “There ain't no cure for the summertime blues”
と、ロジャー・ダルトリーは叫んだ。
「夏の日の憂鬱につける薬なんてありゃしねえぞ」
 そう。働く者にとって夏はどうにも始末に負えない季節だ。
 人は誰も、子供の時分は夏が大好きなのに、年齢を加えるに従って、夏を憎むようになる。これは、体力の問題ではない。
 休めない夏は、一種の呪いなのだ。

 生産性をあきらめてしまえば、夏は心地良くダルく、素敵にレゲエな、懐かしい季節に戻る――ような気がする。私の考えは甘いのだろうか

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