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菅下ろしの深層

「阿修羅」経由で作家矢作俊彦の発言を転載。
書かれたことのすべてに同意するわけではない。特に小泉擁護発言など、これまでの政治状況にあまりに無知すぎると思うが、菅総理下ろしの激化と彼の「脱原発姿勢の明確化」が関連しているという指摘は正解だろう。
また、私は小沢支持者だが、小沢もまた原発利権者の一人だという指摘も多分正しいと思う。それらを含め、この発言には聞くべきものがいろいろあると思うから転載するのである。


(以下引用)

二週間ほど前から、私も言うべきではないかと考えていた。『この際、菅を支持しよう』と。今のこの国では、王様が裸だと言うより、王様は裸じゃないと言う方が、よほど勇気が必要らしい。おかげで今まで言いそびれていた。

そう、日本中が王様は裸だと言っている。しかし、私にこの王様は裸に見えないのである。パンツぐらいははいている。それを何故、よってたかって裸と謗るのか?理由があるに違いない。何しろ敵将ばかりか家臣や市民まで、こぞって裸だと言うのだから。これは理由を疑う必要がある。

王様は自らの延命のために法案を通そうとしていると皆が言う。それが必要かつ有用な法案であるなら何のためであっても、今この際かまわないではないか。王様を玉座から引きずり下ろそうとしている連中と、王様の法案は大筋似たりよったりだ。たとえ延命に手を貸しても、後で帳尻を合わせればよい。

大筋似たりよったりだと書いた。王様と臣や敵軍にはただ一点、違うところがある。原発に対するスタンスである。彼だけが再生可能エネルギーへの転換と原発の(段階的)廃止を主張している。そして――ここが肝心だ。彼がそれを言いだしたとき、家臣と敵軍は王様を玉座から下ろそうとし始めた。

東電の処分が議論され、発送電分離が言われた。そして菅首相は、浜岡原発の停止要請を発した。その直後だ。永田町が一斉に菅降ろしを始めたのは。敵も味方も、菅を引きずり下ろそうとする者たちに大儀があるとは思えない。まずその理由がよく見えない。共通するのはひとつ『性格が悪い』と言う。

思えばこの数年間、私たちは無能の首相に何度もつきあわされてきた。菅は無能かもしれない。いや、きっと無能なのだろう。しかし、それにしたって前の前のあの人や、ことさら前のあの人に較べたら、マシではなかろうか。ことに前のあの人、震災時、あの人が首相でいたらと考えただけで恐ろしい。

菅の元では協力できないと自民党は言う。理由はよく分からない。約束を守らなかったというのだが、その約束というのが国会のある種の慣例だったりする。国会での仁義がきちんと切れないといって怒っている人もいる。要約すると『性格が悪い』ということになる。

性格で仕事を問われたら、私の小説など一冊も売れなくなる。これだけでも、私には菅を支持する必要があるように思える。もちろん、理由がそれだけのはずがあるものか。考えるまでもない。菅降ろしは奇しくも、彼が発送電分離を言い、浜岡を停めたときから一斉に噴出したのだ。

すべてのメディアが、この因果関係に目をつぶっている。いや、あえて触れずにいる。これが何故なのか分からない。ただ東京電力が多くのメディアにとって大変大口のスポンサーだということは、誰でもが知るところだ。そして、多くの国会議員にとってもまた。

名のある政治家で、東京電力から献金を受けていないのは菅直人と小泉純一郎だけだと聞いた。原発を推進し電力会社と大変親密な関係を築いたのは、中曾根康弘と田中角栄である。中曾根には主義主張があった。田中は金だ。その金脈が小沢一郎刑事被告人へ受け継がれていないわけがない。

その小沢被告が拳を振り上げたのも、発送電分離が聞こえ始めた直後だった。今ひとつ呼吸は合わなかったものの、例の不信任決議では自民党と小沢被告の間に連携があったのは、見てのとおりである。彼らに理由などない。何がなんでも菅を引きずり下ろす。それ自体が目的だ。

いや、理由はある。要するに、菅はこの国のエスタブリッシュメントの尾を踏んだのだ。電力会社と原発関連企業と政界に横たわる闇の獣の尻尾を。何とか蛇に怖じずと言う。『無能』で『性格が悪い』わが首相は市民運動出身の素人あがりだった。最近の混乱を見ても、今なお永田町的には素人だ。

私は、その菅を支持する。少なくとも権力の間近にあって、東京電力と原発について、言葉を濁すことなく、まともなことを言っているのは彼と小泉純一郎と河野太郎だけだから。その中で、菅のみが権力中枢の、それもトップにあるからだ。

(阪神ファンには申し訳ないが)長嶋茂雄が監督を辞めた翌々年、私は一年間タイガースを応援した。長嶋が愛した野球チームの行く末を案じて、タイガースの優勝を心底願った。今の気持は、それによく似ている。しかたない。鼻をつまんで菅を支持する。

フクシマを遠く離れて、言うべきことを思いついた。何事にも距離感が必要だ。恋も戦いも、そして言葉も。もう一度だけ言っておく。私は、鼻をつまみ、断固として菅首相を支持する。

日が傾き、じきに飲んでも叱られない時刻になる。だから 2、3付け加えておこうと思う。『菅は品性下劣、自己の栄達しか考えていない。そんな者に与するのか』と、半ば叱責に近いご質問をいただいた。ひとりならず、似たようなご質問を。 答えは簡単、yes! 逆に、それゆえ私は支持する。

その賎しさ、さもしさのみを信じる。自民党の誰それ、小沢被告一味の誰それが言う通り、彼は延命のためならなんでもする。(世間の言いぐさを踏襲するなら)延命のためにのみ、原発をひとつ止められたのである。あと150日延命できるなら、全部止めるかもしれない。

無能かもしれない。性格が悪いかもしれない。しかし(前の誰かのように)わが王様は決して愚かではない。延命のために何をすればよいかを彼は知っている。パンプロー ナの牛追い祭りのように、彼を引き返しのきかない隘路に追い込むこと。私たちに今できることは、それくらいしかない。

だから支持する。 その賎しさ、さもしさのみを信じて。その性格ゆえ、彼ひとりが出来るかもしれないのだ。小泉が郵政にやってのけたこと以上の芸当が。戦後日本国というマシーンのチタニウムのように硬い横っ腹に風穴をあけることが。 ゆえに支持する。一切に鼻をつまんで。

6月24日 矢作俊彦
http://twitter.com/#!/orverstrand

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