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ある「虚無主義者」の死

北村薫編の「こわい部屋」という短編アンソロジーの中に林房雄の「四つの文字」という短編小説が入っていて、そこに描かれた南京政府(日本の傀儡政権)の某大臣(実在の人物だとして描いている)の姿が、ある種の怪物で、その怪物性の理由がおそらく「エゴイズム」と「虚無主義」のふたつから来ているように思われて興味深い。
最近はやりの「自分軸」という言葉も、単純に言えば「エゴイズム」となるのだが、その「エゴイズム」という反面、あるいは正体を世間ではあまり言わない。上記の作品中の某大臣も、世間のすべてを自分の欲望のために利用するエゴイストというだけの話で、経済界や政界にはありふれた種類の人間だが、その能力の高さが彼を「怪物」的存在にしているわけだ。
で、ここで彼を「虚無主義」だとしたのは、彼の全能性の立脚点がそこにあると思うからである。つまり、世間的な美徳やルールを彼は信じていない。冷笑している。だからこそ怪物になるのである。「虚無主義」とは、何も「すべてが虚無だ」と嘆くだけのセンチメンタリズムではない。
ちなみに、彼は南京政府の瓦解とともに自殺するが、彼は最初から南京政府という存在を信じておらず、ただそれを自分のために利用したのである。彼の自殺もいわば「見るべきものは見つ」というだけのことだろう。
まあ、ネタバレをしたら価値が無くなるという作品でもないから、彼の残した「四つの文字」をここでバラすが、それは「学我者死」(「我を学ぶ者は死す」あるいは「我を学ぶは死す」)である。「学ぶ」とは「真似る」意味とするのがいいだろう。

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