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「スキュデリお嬢様」

ホフマンの「マドモワゼル・ド・スキュデリ」を読んだが、傑作である。題名からは想像もつかない「探偵小説」であり「冒険小説」であり「裁判小説」である。幻想文学の作家として知られるホフマンには珍しいリアリズム小説であり、しかも人間心理の機微を深くえぐっている。
前から何度か言及しているバルザックの傑作「暗黒事件」を中編にしたようなものだ。(時代的にはこちらが先。)

題名が魅力がない、と何度か書いたと思うが、森鴎外はこの作品を翻訳していて、私は未読だが、その題名が「玉を抱いて罪あり」という、作品内容を見事に表したものだ。(鴎外の翻訳小説はほとんどが彼が惚れこんだものだけに、実に面白いのである。)
ちなみに、この「マドモワゼル」は73歳の貴族老嬢で、小説家・詩人でもある。その言語能力が彼女を活躍させる(被告人弁護の)基盤にもなるわけだ。「スキュデリお嬢様の大冒険」とでもしたらいいが、それだと中期の高野文子あたりが描いたようなコメディに思われそうである。
ほとんど解決不可能な犯罪事件をいかにして解決するか、という話であるが、そこはルイ14世時代のフランスの話であるから、それ相応の解決策もある。しかし、基本的に話のすべてが合理的で、大審院判事でもあったホフマンの経験が裁判話のリアルさ(無実の被告を救う困難さ)の土台になっているようだ。裁判が被告側にいかに不利かは「暗黒事件」でも書かれている。あらゆる証拠や証言は警察と検察が握っているのである。(クリスティの「検察側の証人」は、それを引っくり返したところに面白さがあるわけだ。)
推理小説ではよく「不可能犯罪」がネタになるが、これは最後に解明されるから実は「不可能犯罪」ではない。で、「マドモワゼル・スキュデリ」は「不可能弁護」の話である。この弁護が成功するかどうかは読んでのお楽しみだ。
ホフマンは幻想文学など書かずに、こうした「リアリズム小説」をたくさん書いていたほうが大文豪になったのではないか。音楽家としても大成はしなかったのだから、「間違った方向に努力する」名人だった気がするww






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