人間など生まれた時から死刑囚であり、いつかは死ぬが、自分ではその時を知らないだけだ。知っているほうがかえって「この世の束縛」から自由な気持ちになるということもある。これは絵本作家の佐野洋子が癌で「死刑宣告」を受けた時の事例だ。彼女はその宣告の後で「すべてから解放された気分」で車のディーラーの所に行き、ジャガーを現金で買ったと言う。
なお、「ダンサー・イン・ザ・ダーク」では重要な脇役としてカトリーヌ・ドヌーブがでているが、実に見事な演技で、彼女を俳優として見直した。(昔は単なる「お人形さん」的美貌で、それとルィス・ブニュエル映画でのエロ演技との乖離が実にエロだった印象しかなかった。)
(以下引用)
執行までの長い年月
一之瀬さんはなぜ死刑について取材するに至ったのか、こう語る。
「もともと警察ものや犯罪ものの作品に興味があり、その手のドラマを見たり小説を読んだりしていました。そのような中、刑務官の方と知り合いお話をしていく中で、刑務官の仕事は塀の中の業務ということもあり、それまで深く知る機会がありませんでしたが、刑務所の中の治安を守ることはもちろんのこと、罪を犯した受刑者の矯正、そして死刑の立ち会いと、重い責任を背負って日々業務をこなしているのだということを知り、刑務官という職業のリアルな姿を伝えられればと思ったことがきっかけです」
一之瀬さんが取材したのは、実際に死刑に立ち会った経験のあるM刑務官。大学卒業後、刑務官試験に合格。地方刑務所、拘置支所勤務を経て、現在は某拘置所に勤務している。
死刑は死刑判決を受けてからすぐに執行されるものではない。刑法に則れば本当は半年以内に執行しなければならないが、現在は判決から執行まで平均7~10年と言われている。なかには確定から20年以上経過している死刑囚もいる。死刑囚は執行のその日まで、どのような暮らしを送っているのだろうか。
「被告」から「死刑囚」に
■判決からの移送
数回の裁判を経て死刑が確定すると、呼び名が「被告」から「死刑囚」と変わる。確定後はその身柄はバスや飛行機などによて死刑施設のある拘置所へ移送される。そこで一般の受刑者と一緒に暮らすのかというと、そのようなことはない。
「死刑囚は隔離されたエリアで生活します。それは、死んで初めて『受刑した』ことになるため死刑囚は『未決囚』であることと、死刑のストレスを減らすためなのです」(M刑務官)
Mさんは隔離することが重要なのだと話す。
「基本的に死刑囚のいるエリアの場所は外部に一切公表されていません。大きい施設だと、刑務官すら場所を知らないこともあります。これは刑場同様、過去に死刑囚奪還未遂事件があったことを受けて未然に防ぐための措置となっています」
その「死刑囚しかいないエリア」で死刑囚はいつ来るか分からない執行の時を待ちながら生活していくのだ。
記事後編【死刑に立ち会った刑務官が明かす…死刑囚を絶対に「名前」で呼んではいけない理由】では、死刑囚が送る生活が実際はどのようなものなのかについて記します。
自殺防止が徹底されている
■死刑囚の部屋
死刑囚は拘置所内で隔離され、「死刑囚しかいないエリア」で生活する。その部屋は、1人1室。4畳ほどで窓、洗面台、トイレ、畳のスペース…と刑務所の独居と一見してそう変わらない。
「決定的に違うのは自殺防止に特化されているということです」(取材したM刑務官)
窓は航空機にも使用される割れない特殊ガラスで、遮蔽版で外が見えないようになっている。洗面台の鏡はフィルムが貼られ割れにくい工夫がされていて、蛇口は首吊りのヒモをかけられないようボタン式だ。
「極めつけは24時間監視カメラで監視し、そのために夜中も薄明り状態にしていること。結構明るいから最初は寝られない死刑囚も多い」(M刑務官)