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少年騎士ミゼルの遍歴 35

第三十五章 エタム上陸

 光り輝く秋空の下、船はエタムに向けて出発した。爽やかな風の吹くヘブロンの島はミゼルたちの背後にだんだんと小さくなっていった。
 ヘブロンを出て十日ほどたつと、空気が淀んだようになり、暑熱が増してきた。空は黒い雲に覆われ、一日のうちに晴れと雨が何度も交代する。雨がやむと、黒い雲の帳から黄金色の光の筋が海上に降り注ぐ。だが、むっとするような暑さは変わらない。
 やがて水平線上にエタムの島影が黒々と見えてきた。ヘブロン島が見えた時の印象とは異なり、陰鬱な印象の島である。海の色もヘブロンの透明なサファイア色とは違って、重苦しい緑色である。
 その陰鬱な印象は、島に近づくにつれてますます強くなった。島全体に密生したジャングルが、暗い感じを与えているのである。
 砂浜の海岸に船を付けて碇を下ろし、停泊する。その日は海岸周辺を散策しただけで、森林の奥に入るのは明日にすることにした。
 翌日、ミゼルたち六人は海岸から坂を上がって密林に入って行った。目指す所は、島の中央にある火山である。
「あの火山の麓に、シャクラ神殿という蛮族の神殿があります。もとはラミアという白人の一族の神殿でしたが、およそ二百五十年前に蛮族に滅ぼされ、その生き残りがヘブロンに渡ったのです。父と私は、その最後の二人なのです」
 リリアがミゼルに言った。
「ラミアは、レハベアムやヤラベアムの人々の祖先でもあると聞いたことがありますが?」
 ミゼルが聞くと、リリアは微笑んで答えた。
「それは神話時代の話ですから、私には何とも言えません。人の種類としては、多分同じなのでしょう」
 一行は、ピオ、ミゼル、メビウス、マキル、リリア、ザキルの順に並んで密林の中を進んで行った。
 奇妙な動物や植物が彼らの前に現れたが、まだそれほど危険な物には出くわしていない。
 夕方に夜営の準備をし、六人は食事をした。その食事の後でリリアがミゼルに話があると言って他の者から少し離れた場所に呼んだ。
「実は……こんな事、話しにくいんだけど、隊列の順序を変えてほしいの。ザキルが私にしょっちゅう嫌らしい事を言うの」
「どんな事を言うんですか」
「そんな事、私の口から言えませんわ」
 ミゼルは考え込んだ。おそらく、男と女の間の淫らな話だろう。ミゼルは、ザキルがリリアにそのような気持ちを抱いているというだけでも、激しい怒りと苦痛を感じた。この清らかな人に、そんな気持ちを抱くとは。
「わかりました。明日から、順序を変えましょう」
 ミゼルは、リリアにはそう答えたが、リリアが加わったことで、ザキルという人間がこれから旅の重荷になりそうな、いやな予感がしていた。

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HN:
酔生夢人
性別:
男性
職業:
仙人
趣味:
考えること
自己紹介:
空を眺め、雲が往くのを眺め、風が吹くのを感じれば、
それだけで人生は生きるに値します。

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