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少年騎士ミゼルの遍歴 31

第三十一章 冥界の騎士

 ミゼルは、大蜘蛛の死体の側に転がっている騎士たちの亡骸の間から剣を拾い上げた。槍だと投げるか刺殺するかしかできないから、場所や相手によっては不利になるからである。剣は湿気ですっかり錆びていたが、相手を殴り殺すことはできるだろう。
 大蜘蛛を倒した場所からしばらく先に進むと、あたりが段々と明るくなってきた。それとともに水の流れる音が聞こえてくる。もしかしたら、不死の泉が近いのかもしれない。
 その時、ミゼルの前方の岩壁から不気味な声が聞こえてきた。
「愚かな人間よ。この先には通さぬぞ」
 岩壁に、染みのような黒い影が現れたかと思うと、それは人の姿になった。鎧を着た騎士だが、その顔は髑髏である。騎士の亡霊だろうか。
「我々は、破邪の盾と不死の泉を守る冥界の騎士だ。この先に進みたくば、我々全員を倒していくがよい」
 亡霊騎士は、一体だけではなく、見ている間に岩壁から続いて生まれてきた。まるで昆虫の脱皮のように、青白い姿が、岩壁を離れると茶色に色づいていく。
 最初の亡霊騎士が、剣を振り上げてミゼルに襲いかかった。ミゼルは手にした剣で、その攻撃を受け止めた。左手に持った槍は投げ捨て、身をかがめて、地面に落ちていた古びた盾を拾い上げる。
 盾で防御しながら攻撃すると、相手に加えた攻撃のうち、斬ったり刺したりした傷は相手に何のダメージも与えないが、一度切り離した手足は元に戻らないことが分かった。つまり、足を切り離せば、相手は立ち上がることができず、手を切り落とせば、剣を取って戦うことはできないのである。しかし、槍よりましとは言え、なまくらな錆び刀で、相手の手足を切り離すのは、容易な業ではない。
 一体目、二体目とミゼルは亡霊騎士を倒していった。しかし、騎士は次々と岩壁から生まれてくる。相手を倒すのに手間取ると、敵の数が増え、一度に二人三人を相手にしなければならない。騎士の技量は生前の技量のままらしく、騎士によって差があり、倒すのにも苦労の度合いが違う。六人目と七人目を同時に倒した時には、ミゼルは相当の疲労を感じ始めていた。しかも、その時には、敵はまだ二人残っており、さらにもう一人が岩壁から生まれつつあった。
 このままではやられる、とミゼルは思った。その時、ミゼルの頭に一つの考えが生まれた。亡霊の生まれる状態は、昆虫の脱皮を連想させたのだが、もしかしたら、生まれ出た瞬間には、亡霊は無力な状態かもしれない。
 ミゼルは気力を振り絞って、目の前の二人の敵に攻撃を加えた。一人、また一人と倒した時には、もう一人がすでに岩壁から外に出てミゼルに向かってきていたが、それも何とか倒し、ミゼルは亡霊騎士の剣を拾い上げて、急いで岩壁の方へ走り寄った。岩壁からは、次の亡霊が青白い上半身を出しかけていた。
 ミゼルは壁の横に立って、剣を振り下ろした。亡霊騎士は上体を切り落とされた。先ほどの錆び刀と違って、亡霊騎士の剣は、切れ味がいい。
 後は、次々と生まれてくる亡霊騎士に向かって機械的に剣を振り下ろすだけであった。
 だが、亡霊騎士は無限に生まれてくるかのようである。ただ剣を振り下ろすだけでも、ミゼルの疲労は耐え難いものになってきていた。
 およそ二百体ほども斬った時には、ミゼルの腕はもはや、振り上げるのもままならないほどであった。
 それから何体斬ったか、ミゼルの頭が朦朧となって手が上に上がらなくなった時、やっと亡霊騎士は岩壁から出てこなくなったのであった。

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仙人
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空を眺め、雲が往くのを眺め、風が吹くのを感じれば、
それだけで人生は生きるに値します。

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