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天国の鍵8

その八 あたたかな家

 ヤクシーはその女の人のところへかけよりました。二人は抱き合って、再会(さいかい)を喜び合っています。
 ハンスは近づいてその女の人の顔を見てびっくりしました。なんと美しい人でしょう。ヤクシーを見た時、ハンスはこの人は世界で一番美しい人だろうと思いましたが、この女の人は、それに負けないくらい美しいのです。ヤクシーとはぜんぜんちがって、この女の人は白い肌にブロンドに近い亜麻色(あまいろ)の髪、透き通るような空色の目をしています。教会のステンドグラスの天使をハンスは思い出しました。
年はヤクシーより少し下みたいですが、そばに二人の子供がいますから、もうお母さんなのでしょう。
 子供は、一人は三歳くらいの男の子、もう一人はまだ一歳くらいの赤ん坊です。こっちは女の子に見えますが、赤ん坊はくべつがつきません。とてもかわいい赤ちゃんです。
「やあ、マチルダ、おひさしぶり。元気そうだね。マルスは?」
ピエールが女の人に言いました。
「マルスは畑よ。ピエール、ヤクシー、会えてうれしいわ。この子は?」
マチルダと呼ばれた女の人は、二人のそばにいるハンスを不思議そうに見て言いました。
「新しい相棒(あいぼう)だよ。名前はハンス」
 ハンスはぺこりと頭を下げました。
「相棒ですって? ピエール、あんたまさか、また泥棒を始めたんじゃないでしょうね」
 マチルダは、ハンスにおじぎを返した後で、ピエールを問いつめるように言いました。
 なんと、ピエールは泥棒だったのでしょうか? それにしても、なんで泥棒がこんな美人たちと知り合いなんでしょう。
「まさか。おれたちは大金持ちなんだぜ、今さら泥棒なんてするもんか」
 ということは、元泥棒だということはたしかなようです。
「子供に悪い事を教えないでよ。うちのオズモンドにもね」
 マチルダはピエールに釘(くぎ)をさして、家の中に招き入れました。
 広広とした家の中は、きちんと清潔にかたづいています。大きな窓からはいっぱいに光がはいり、室内をあたたかに照らしだしています。本当に居心地のよさそうな家です。
「案外ちゃんと家庭(かてい)の主婦(しゅふ)をやっているようじゃねえか。女中はいないのか?」
 ピエールの言葉に、マチルダが少しじまんそうに答えました。
「お掃除もお洗濯もぜんぶ私一人でやってるのよ」
 その言葉に、ハンスはかえってびっくりしました。掃除や洗濯を主婦が一人でするのは当たり前です。この人はなにをいばっているのでしょう。美人だけど、ちょっとへんです。
 マチルダは三人を歓迎して、たくさんのごちそうをテーブルにならべました。

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HN:
酔生夢人
性別:
男性
職業:
仙人
趣味:
考えること
自己紹介:
空を眺め、雲が往くのを眺め、風が吹くのを感じれば、
それだけで人生は生きるに値します。

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