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天国の鍵11

その十一 山脈越え

 ハンスたちはマルスとマチルダの家に一週間滞在(たいざい)して、それからアスカルファンとグリセリードの境い目の大山脈(だいさんみゃく)を越えることにしました。
「ハンス、お前にこれをあげよう」
ロレンゾはハンスに一本の杖(つえ)をわたしました。金の握り(にぎり)のついた木の杖ですが、中に鉄の芯(しん)がはいっているのか、木よりは重みがあります。
「魔法の杖じゃ。わしにはもう用がないからな。それに、これはお守りじゃ」
 そう言ってわたしたのは、指輪です。くすんだ銀色の、あまりきれいではない指輪です。
「魔法の杖といっても、おおげさに考えることはない。これで魔物をなぐると、けっこうきくのじゃ。それに、歩くときも杖があるとべんりじゃよ」
 手を振ってマルス、マチルダ、ロレンゾに別れをつげ、いよいよ山登りです。馬は山登りが苦手なので、ピエールとヤクシーはマルスの家で馬を置いてきています。だから、荷物はグスタフに乗せ、ハンスたちは歩きです。
「ヴァルミラちゃん、かわいかったわね」
とヤクシーが言いました。ヴァルミラはマチルダの、女の子の赤ちゃんです。
「元祖ヴァルミラは今ごろどうしているかなあ」
「アスカルファンはたいくつだ、とか言ってアルカードへ行ったけど、アルカードでグリセリードの残党(ざんとう)の大将(たいしょう)になっちゃったなんておどろいたわね」
「そのせいで、アルカードが平和になってアンドレとトリスターナはよろこんでいるだろうよ。今では連中(れんちゅう)はアルカードの軍隊(ぐんたい)だからな」
 二人はハンスにはわからない話をしています。これを読んでいるみなさんにもわからない話ですが、がまんしてください。時間というものはずっと続いているものですから、この話の前にも時間は流れていたのです。もちろん、この話が終わったあとも、時間は流れるのです。たとえば、シンデレラが王子さまと結婚して、それで話は終わりですが、もちろんシンデレラと王子はその後も生き続けて、あまりぱっとしない残りの人生があったわけです。お話は人生の一番いいところだけを切り取って見せるものなのです。だって、年とってぶくぶく太ったシンデレラやしわだらけのシンデレラなんて見たくないでしょう?
 ともかく、赤ちゃんのヴァルミラのほかにもう一人ヴァルミラというへんな名前の女の人がいて、その人は軍隊の大将になるくらい強い人だということはハンスもわかりました。
きっと、プロレスラーみたいな、ごつくて怖い女の人なのでしょうね。
 さて、だんだんと山は険(けわ)しくなってきました。でも、ピエールもヤクシーもハンスも身軽(みがる)ですから、坂道も苦になりません。
 後ろをふりかえって下を見下ろすと、アスカルファンはずっと遠くまで広がって、平野も丘も一部は雲の下にかくれてます。
 まだ夏の終わりくらいだのに、高く登って行くと、ずいぶん寒くなってきました。

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HN:
酔生夢人
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男性
職業:
仙人
趣味:
考えること
自己紹介:
空を眺め、雲が往くのを眺め、風が吹くのを感じれば、
それだけで人生は生きるに値します。

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