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天国の鍵16

その十六 山の怪物のうわさ

 シャングーの町は、眠ったように静かです。土壁(つちかべ)のたてものは白く、屋根は赤いかわらぶきです。通りにはあまり人はいず、兵隊たちがときおり通るだけです。町の中心部には、道端に品物をならべて売っている大道商人のすがたや、店の前の入り口を広くあけてお客さんを待っている酒場(さかば)もあります。
 ハンスたちは酒場にはいって食事を注文しました。
 小麦粉を水でこねてゆでたり焼いたりしたものや、それをスープにいれたものがグリセリードの主な食事のようですが、そのほかに、鶏肉料理や豚肉料理、卵料理などもあります。豚肉料理はアスカルファンよりおいしいとハンスは思いました。
 ピエールは、土地のお酒を飲んで、気持ちよくよっぱらっています。長い旅のあとですから、お酒もいっそうおいしいのでしょう。
「ここの食事はうめえや」
 あいかわらず下品な言葉づかいでアリーナが言いました。アリーナは、四人の中でも一番の大食いです。あの小さな細い体のいったいどこに入るのかと思うくらい食べます。
 ハンスたちはこの静かな町が気に入ったので、ここにしばらく滞在することにしました。
 盆地ですが、町の中心には大きな川が流れており、川のそばにはヤナギの木がたくさんはえていて、それが水にうつってとてもきれいです。
 この町には神秘的(しんぴてき)な力があるのか、ハンスはここにいるあいだに、ロレンゾの教えた魔法のうちいくつかが本当にできるようになりました。まだ確実(かくじつ)ではありませんが、ロレンゾが教えたのはうそではなかったようです。 
そろそろ出発しようかな、と思ったころ、ハンスたちはみょうなうわさを聞きました。この町から東へ向かう街道に、怪物が出て、旅人を食べるという話です。
「そりゃあ、山賊(さんぞく)だな」
 ピエールが言うと、ヤクシーがうたがわしそうに
「なら、なんで怪物という話になるのよ。山賊ならめずらしくもないでしょう」
と言いました。
「人々がこまってるなら、おれたちが助けようぜ」
と言ったのはアリーナです。
「まあ、どうせ通り道なんだから行くしかないな」
とピエールも言いました。
 そこで四人は荷物をまとめて出発しました。
 町を出てすぐに、道は坂道になり、山にさしかかります。
 ちょうど日もくれかかって、あたりはものさびしくなってきました。最初(さいしょ)は強気(つよき)だった四人も、だんだんこころぼそくなってきました。
 とうとうすっかり日がしずみました。

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酔生夢人
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男性
職業:
仙人
趣味:
考えること
自己紹介:
空を眺め、雲が往くのを眺め、風が吹くのを感じれば、
それだけで人生は生きるに値します。

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