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少年マルス 13

第十三章 アルカード

「さて、これからどうする? モンタナ一族が国王への反乱を起こそうとしているなら、国王の重臣であるオズモンドとしては、国王にそれを報告しなければならんだろう」
マルスはオズモンドに言った。
「そうだな。多分、誰かが既に知らせているとは思うが、もしまだなら、僕が知らせねばならん。せっかくここまで来たが、戻っていいかな?」
「いいとも。叔母に会うという目的は達したし、それどころか叔母を連れ戻すこともできたんだから、僕には文句はない」
そう言えば、とマルスはトリスターナに向き直った。
「実は、父のジルベールが、母のマーサに上げたペンダントを母の遺品として貰ったんですが、そのペンダントの事は知ってますか?」
「もしかして、大きなブルーダイヤのペンダント?」
「そうです」
「今、それをあなたが持っているの?」
「いいえ、残念ながら、ピエールという盗賊に盗まれて、ピエールはそいつを売り払ったみたいなんです」
「そう、残念ね。あれはオルランド家の家宝です。王様でもあれほどの宝石は持っていないでしょう。おそらく、二百万リムの値打ちはありますわ」
「二百万リム!」
オズモンドが声を上げた。
「国王の身代金になるくらいの金額だな」
彼はマルスを見て言った。
「そんな代物を君はみすみす泥棒に盗まれたんだぜ」
マルスは呆然とした。二百万リムと言われても、見当がつかない。
「でも、世間ではブルーダイヤの値打ちは知られていません。レントかグリセリードの人間なら、喜んで買うでしょうが、アスカルファンでは金より安くしか売れないでしょう。つまり、五百リムくらいです」
トリスターナの言葉にマルスはほっとした。五百リムくらいなら、いつの日か買い戻せるかもしれない。
「ジルベールの行方について、何か手掛かりはありませんか?」
マルスは話題を変えた。
「そうですね……もしかしたら、アルカードに行ったかもしれません。マーサはアルカードの出身だと言っていましたから。ジプシーの娘で、旅してバルミアに来た時にバルミアが気に入ってそのまま一人でそこに残ったという話でした。だから、マーサがアルカードに帰ったと思って、それを追ってジルベールはアルカードに行った可能性があります」 
「そうですか……」
マルスは考え込んだ。そして、オズモンドに向いて言った。
「オズモンド、悪いが、バルミアには君達だけで帰ってくれ。僕はアルカードに行くことにする。父を探してみたいんだ」
オズモンドはマチルダとジョンの顔を見て、ためらった。
「どうする? 僕はマルスとアルカードに行ってみたいんだが……」
「行きましょうよ。どうせ、帰っても、戦に巻き込まれるだけよ。そんなの馬鹿馬鹿しいわ」
マチルダが言った。ジョンも相槌を打つ。
「そうですな。お嬢様のおっしゃるとおりだと思いますよ。戦で手柄を立てて出世しようというのならともかく、オズモンド様が戦に出ても何も利益は無いでしょうな」
「べつに利益などいらんが、僕が戦場にでてもあまり役には立たんだろう。よし、このまま皆でアルカードに行こう」
グルネヴィアの町で、一休みした一行は、マチルダとトリスターナの為に旅支度を整えた。女服では山越えは難しいので、二人とも男装させたのである。
気の強い顔をしたマチルダは男装すると美少年そのものだったが、女らしいトリスターナが男装をすると少々妙な感じである。しかし、これで道が歩きやすくなったのは確かだ。
その夜は、これからの山越えの苦難に備えて、一同は目一杯の御馳走を食べた。
「こんな御馳走は十二年振りですわ!」
トリスターナは感激した。
「これだけでも修道院を出た甲斐はあります。これは何の肉かしら。山鳩かしら、雉かしら。このお菓子の中の木の実はアーモンド? 何ておいしいのでしょう」
男達はビールとワインを飲みまくり、ジョンは故郷レントの民謡を歌い、オズモンドは宿屋にあった、ヴァイオリンに似たレベックという楽器を弾いた。
しまいにはトリスターナとマチルダまでワインに手を出し、酔っ払って聖歌を合唱するという罰当たりなことまでしたが、一晩寝るとそんな事はすっかり忘れてしまったのであった。

翌日、ジョンは馬車を宿屋に預け、驢馬を二頭買ってきた。山越えの荷運びには馬よりも驢馬の方が役に立つ。馬車に付いていた四頭の馬も宿屋に預け、馬はマルスのグレイだけである。もちろん、険しい山道ではそれに乗るわけにはいかないが、置いていくには忍びなかったのである。
マルスは携帯できる食料や必要な衣類、布やロープの類を買った。山では布やロープが役に立つ。マチルダとトリスターナにもナイフと杖を持たせる。マルス自身は山刀を持つことにした。
こうして一行は、はるかに聳える雪の残った山頂を目指して出発した。

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酔生夢人
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男性
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仙人
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考えること
自己紹介:
空を眺め、雲が往くのを眺め、風が吹くのを感じれば、
それだけで人生は生きるに値します。

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