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地方は中央の残飯でもお食べ

京都に引越した時、あまり多くの荷物はすぐには運べないので、本などは適当に数冊選んで持ってきた。その中に、ずっと前に買ってまだ読んでいなかったヘンリー・フィールディングの『ジョウゼフ・アンドルーズ』などもあった。まだ読んでいなかったというのは、この本は、作者があの大傑作『トム・ジョウンズ』を書く前の、作家として未熟な時代の作品で、読むのに気分が乗りにくい作品だったからだ。しかし私は凡才の秀作よりも天才の失敗作の方が興味深いという考えの持ち主なので、そのうち読もうと思っていた。引っ越し後、暇な時間がだいぶあったので、それを読み進めているわけだが、その中に、原発や在日米軍基地の問題の本質につながるような一節があったので、紹介する。

「夫人(夢人注:女地主で、かなり嫌な性格の女である)が村に入ると、教会の鐘が鳴り、貧乏人たちが歓呼して迎えた。彼らは、女主人が長い不在の後に帰ったのをみて喜んだのである。なにしろ夫人の不在中は年貢はことごとくロンドンに吸い上げられ、村内ではただの一シリングも使われず、そのため彼らの困窮に少なからず拍車を加えていた。もし、ロンドンのような都会に宮廷がなかったらわびしいかぎりであろうが、むしろそれ以上に地方の小さい村では大財産家の不在はこたえるのである。第一そのような家族が住んでおれば、村人には始終なにかしらの仕事や給与があるし、彼ら(夢人注:村の大金持ち)の食卓の残飯は、病人や老若の貧民を十二分に養い、しかもそれをふんだんにほどこしたところで、奇特な彼らの懐中は少しも痛まないわけなのだ。」(朱牟田夏雄訳 岩波文庫)

この「大財産家」を東電や関電、すなわち原発としてもいいし、米軍基地としてもいいだろう。ちなみに、この『ジョウゼフ・アンドルーズ』は18世紀のイギリスが舞台の「喜劇的叙事詩」(フィールディングが自分の小説をそう呼んだ。)であり、べつにプロレタリア文学ではない。
日本全国には、このように支配階級の「残飯」で生きている地方都市が無数にあり、残飯の中からいいところを真っ先に自分が取ろうと大騒ぎする地方自治体首長や議員たちもたくさんいる。べつに原発再稼働を推し進めているO町だけの話ではない。今、金が手に入れば子子孫孫奇形児が生まれてもかまうものかと豪語した地方自治体首長もどこかにいた。自分たちさえ肥え太れば、町民全体が被爆しようが、他の市町村まで被爆しようが、後は野となれ山となれ、というわけだ。基地の誘致も同様だ。基地外の盆踊りである。(「死霊の盆踊り」は映画の傑作タイトルの一つだと私は思っているが、中身は最悪らしい。)

ついでながら、朱牟田夏雄による『トム・ジョウンズ』の翻訳は古今の名訳である。まあ、夏目漱石レベルの日本語力があってはじめてできる名訳だろう。その『トム・ジョウンズ』は世界でもっとも面白い文学作品の一つであるが、もしかしたら岩波文庫でも絶版になっているかもしれない。古い物はどれほど価値があってもどんどん見捨てられるのが現代である。その結果は、現在のテレビ番組や雑誌や新聞を見ればよく分かるだろう。

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「梅ちゃん先生」を見るためならNHK料金も払う

ブログ中断前は、毎日のように更新しなければならないという強迫観念めいたものがあって、負担感が少しあった。趣味で始めたブログに負担感があるのでは、本末転倒だろう、ということで、再開後はなるべく気楽にやるつもりでいる。
ブログ内容も気楽な、趣味的なものを書きたいと思っているのだが、ついつい重い社会的問題についての感想などを書いてしまうのは、根が真面目だからだろう。まあ、軽い記事は「アンファニズム」あたりに書いているので、私という人間の子供っぽい部分はそこで発散しているからいいわけだ。

さて、今日はNHKの朝ドラの話をしよう。
大評判だった「カーネーション」の後を受けて始まった「梅ちゃん先生」は一向に評判にならないのだが、これは近来出色の出来ではないかと私は思っている。毎日ただで見ていては済まないので、私はこれまで不払い方針だったNHK料金を払い始めたくらいだ。しかしこのドラマが人気にも評判にもならないのは、多分主人公の梅子があまりに「いい子」すぎて女性受けしないのだろう。
女性は自己中でわがままな女主人公が好きなものだ。松田聖子やダイアナ妃が女性に好まれるのは、自分もそう生きたいという願望を代行しているからだろう。梅子のような「いい子」は男にとって都合のいい女として嫌われるわけだ。「カーネーション」は数回しか見ていないが、あれも女性受けするタイプの主人公だったようだ。
で、「梅ちゃん先生」というドラマは、実に気持ちのいいドラマである。一日が始まる朝からドロドロの不倫劇など見たがるのは女性くらいであって、男は爽やかなドラマを見たいものだ。「梅ちゃん先生」は爽やかで楽しいドラマであり、朝ドラとしては最高だろう。昔の、「おハナはん」という朝ドラ(表記は不明。「お花はん」か?)に近いのではないか。あの頃はそういう朝ドラが好まれたのだが、多分、これから世間の嗜好がそういう方向に回帰していく気がする。だから、「梅ちゃん先生」スタッフは気長に構えて、今の方向を見失わないように作っていってもらいたいものである。

蛇足だが、タイトル画面のジオラマの中で、よく見ると焼鳥屋か何かの前に朝も昼も夜も同じ猫がずっといるようだ。そういう細部も面白い。

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EU各国は同じベッドで別々の夢を見ていたが、夢は終わった

「株式日記と経済展望」に転載されていた「ビジネス知識源」というサイトの一節を孫引き引用する。
まあ、私の経済論なんて、ほとんど直感でしか語っていないのだが、少なくとも、私はネットに接する前から1929年の世界大恐慌は意図的に引き起こされたもので、それによって巨利を得た連中が現在の大財閥だと考えていた。学校教科書で得た知識を金科玉条とする羊の群れにはこの程度の推論さえできないのである。
で、まあ、今回のユーロ危機についても私の発言はほとんどが直感による推測だ。初歩的ミスもたくさんあるだろうが、しかし大筋と結論は、案外と正鵠を射ているのではないかと思う。でなければわざわざ自分のブログに書いたりはしない。そして、下記記事も私の書いてきたことと大筋では同じだと思うので、ここに引用するわけである。

(以下引用)

ユーロ(夢人注:これはEUの誤りだろう)と米国の金融機関は、ユーロであるため為替リスクがないのに金利が高いギリシア債を、好んで買っていたのです。しかも、ギリシア国債の残高は40兆円しかなく売買市場も小さいので、少数のプレヤーが、少ない資金で相場を動かすことができたのです。

ユーロ高のため、ギリシアは、財政赤字を続け、高い公務員報酬と、現役時代の90%の所得になる年金を払うことができていました。統一通貨のユーロに属しているということが、ギリシアに財政赤字を続けさせたと言っていいのです。

ギリシアが固有通貨のドラクマなら通貨が下がって、ユーロ建てのようにはギリシア債は売れず、政府の財政赤字にもブレーキがかかっていたでしょう。ギリシアはユーロに属したため、財政破産したと言っていいのです。

ギリシアをユーロに入れたことは、EU(欧州経済連合)の誤りだったのです。しかし、この誤りは、PIIGS 5ヵ国に共通したことです。

各国の税制と経済を統一しないままのユーロという仕組みそのものが、歴史上の誤謬でした。

EUは、これを認めたくない。このため、外部に向かっては、いつも、南欧債の損失見積もりでは「粉飾(ドレッシング)の発表」をしています。

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EUの終焉は近い。そして強欲資本主義もまた。

「イラン・ジャパニーズ・ラジオ」というホームページから転載。
たまには欧米発のニュースばかりでなく、非欧米発のニュースも見たらどうか、ということである。まあ、欧米のマスコミは言うまでもなくユダ金による支配の道具なのであって、日本のマスコミはその欧米マスコミ捏造のニュースを無批判に垂れ流すわけである。そしてネットの野次馬連中の中にもその情報を鵜呑みにしてアメリカ万歳、欧州万歳、白人万歳を叫び、日本以外のアジアや中東の国々を自分たちとは無関係な野蛮国扱いする馬鹿が無数にいる。
まあ、あらゆる情報はバイアスがかかっているのだから、何も非欧米発のニュースが100%正しいとは言わないが、少なくとも両方の情報を公平に眺めることは必要だろう。
で、下記情報によると、EU諸国の悲惨さは想像以上である。まるで崩壊期のソ連みたいだ。ソ連でも社会主義から資本主義への移行期に、国家上層部と欧米資本家とマフイアによる国家資産の強奪が行われ、庶民は貧困のどん底に落ちたのだが、それが「資本主義の勝利」と言われたものである。それから約30年。資本主義の末路がこうである。


(以下引用)


2012年 5月 07日(月曜日) 18:48

ヨーロッパの失業率の上昇と経済的な危機
西側諸国は5月1日のメーデーを昨年よりさらに悪い状況で迎えました。ヨーロッパの経済危機は金融市場への影響を超えて、実際の経済にまで及んでいます。それは人々の仕事に影響を与え、幅広い失業を伴う不況の原因となり、また人々の収入と経済的需要は減少しています。ヨーロッパの人々と政府は、この経済危機という問題に直面しています。
2007年のEU諸国全体の失業率は7%を計上していました。2008年には7.5%に増加し、2009年に9%となりました。2010年にはさらに0.5%増加し、9.5%に達しています。つまりEU諸国では、2007年より現在に至るまで、毎年失業率は0.5%増加していました。
ヨーロッパ諸国の中で、一番失業率が高いのはスペインです。スペインの国営統計局は、最新の統計で、今年3月終わりの同国の失業率が24.4%に上ったと報告しています。また、この統計によりますと、スペインの失業者数はおよそ563万9500人と計上されています。2012年最初の四半期で、36万5900人が職を失っているのです。この伸び率が今年の終わりまで続けば、今後100万人以上の労働者が職を失うことになります。失業率では、25歳以下の若年層の失業率が2倍となっています。つまり現在、50%以上のスペインの若者が求職活動中という状態です。スペインのマルガージョ外務大臣は統計上の失業率の高さについて「これらの統計は国全体、特に政府にとって恐るべきものだ。スペインは大変な危機の中にいる」と語りました。
イギリスの銀行HSBCホールディングスのチーフエコノミスト、ステファン・キング氏は「スペインはギリシャと同様の運命を繰り返すことになる。ヨーロッパの不況は、そこから一歩抜け出そうとすると、二歩引き戻されてしまうほど深刻である」と語っています。
ヨーロッパの失業率の高さは経済危機と緊縮財政より生じた結果の一つです。また、ヨーロッパの経済危機に陥ったすべての国は、失業率の高さに由来する様々な問題に直面しています。ユーロスタット・EU統計局の報告によりますと、EU加盟国27カ国の平均失業率は10.8%で、これは過去20年で最悪のものとなっています。また、この27カ国において2300万人が失業しており、ユーロ通貨圏17カ国の失業者は1700万人に上ります。緊縮財政の実施がこれらの国の経済を不況に落としいれ、企業の倒産や失業率の増加の原因となっているのです。
EU諸国の中で最も高い失業率を記録するスペインについてもう一度指摘しますと、スペインは経済危機に陥った国として、財政赤字と債務水準の低下を目的にEU諸国の圧力で緊縮財政の実施を余儀なくされました。スペイン政府は政府予算縮小のため、これまでに最低賃金の引き下げ、定年の引き上げ、福祉、医療サービスや教育費の削減という3つの計画を実施してきました。この計画によって数万人の就職の機会と、人々の購買力が失われています。購買力の低下も、内需の低下と、製造業・サービス業に携わる多くの企業の倒産を引き起こしています。その倒産の結果、失業者が増加しているのです。
専門家は若年層の失業率の上昇への懸念を表明し、ヨーロッパ社会におけるうつ病の蔓延や犯罪の増加を警告しています。失業問題は多くの犯罪や社会不安、精神的な病気を引き起こす主な原因となります。あるヨーロッパの専門家は、ヨーロッパの自殺者数は経済危機のあとに増加している、と見ています。
EU諸国の公式報告によりますと、すべてのヨーロッパ諸国で自殺者数は増加傾向にあり、経済危機との関連性が存在するとされています。ヨーロッパのニュースチャンネルであるユーロニュースは、大荒れの経済状況がヨーロッパの自殺者増加の危機を大きくしている、と伝えました。2010年のギリシャの自殺者数は前年に対して18%増加しました。また2011年には25%増加しています。この経済的危機以前のギリシャの自殺者数は、EU諸国の中で最も低かったのです。ギリシャの首都アテネのある病院の心療内科の責任者は、この問題について「自殺者の20%は精神的な疾患に罹患した経験がなく、この経済危機で被害を受けたか、または克服することが出来ない大きな経済的な問題や病気の問題を抱えていた人々であり、彼らは自殺という方法で問題解決しようとした」としています。
少し前、定年退職したある老人がアテネ中心部で自殺し、そのことがアテネでのデモ活動の波を引き起こしました。この77歳の老人は以前は薬剤師として薬局に勤務しており、アテネの地下鉄出口の脇で何度か「私は借金を抱えている、もうこれ以上この状態に耐えられない」と叫んでいました。ついに彼は拳銃を自分の頭部に向けて発砲し、自らの命を絶ってしまったのです。自殺後、遺書の一部がレインコートのポケットから見つかりました。それには「私は年金を35年間納めてわずかな額を受け取っているがこれでは生活できない。」と書かれていました。この老人は自殺の理由について、遺書の中で「私は食べ物を求めてごみあさりをするようになる前に、尊厳ある最期を選ぶしかない」と記しています。
ロシアトゥデイ紙の記者はこれについて次のように報じました。「このギリシャ人の老人の自殺は、EU諸国全体で普通の人が極度の貧困にさらされていることを示しており、それは緊縮財政という方針の中での生活保護の予算削減によるものだ」
イタリアでは、ある70歳の女性が、経済的な理由で3階のバルコニーから飛び降りました。イタリアの新聞イル・ソーレは「起業家たちは自殺する」という見出しで、イタリアで経済的な理由で2名が自殺したニュースを伝えました。
経済危機の影響を受けたヨーロッパの国々の状況改善について、近い将来に明るい展望が見えないことから、ほとんどのヨーロッパ諸国はうつ病や自殺の増加という問題に直面しています。多くのヨーロッパの人々が、自分で食料を購入できない状態にあります。ヨーロッパの一部の国、特に深刻な経済危機の影響を受けている国では、女子大生や既婚の女性までもが、生活の基本的なニーズを満たすために、売春を行っているのです。
食料確保のために、慈善活動センターに通う人々の数が増えています。少し前に、イギリス・ブリストルのホームレスの人々に食料を配給している、ある慈善センターの責任者が日々の食料のためにセンターを訪れる人の数が急激に増えたことを認め、「1年前は、1週間に2回だけ、1日あたり250人がこのセンターを訪れていたが、現在では毎日400人が訪れている」と語っていました。
イギリスの「子供たちを救え」という名前の慈善団体は、「170万人のイギリスの子供たちが極限の貧困状態に苦しみ、十分な食料や衣服を与えられていない状態である」と報告しています。あるイギリスの慈善プログラムの責任者は、ある統計に関して「厳しい貧困に苦しむ子供たちの増加は、残念なことである」と語りました。また、イギリスの失業率が高まる可能性について、「将来、厳しい貧困状態に苦しむ子供たちの数が、イギリスで急激に増加する」と警告しています。
少し前、イギリス発行の新聞「デイリー・テレグラフ」はある記事で「イギリスの経済格差は、第二次世界大戦後かつてない広がりを見せた」としました。この新聞によりますと、イギリスはヨーロッパ諸国の中で、貧困層に属する人々の割合が最も高い国であり、次いでイタリア、スペイン、ギリシャがその後に続いています。
ヨーロッパ社会における失業者の増加、精神的な病気の蔓延、家族関係の崩壊、経済的・階層的な格差の広がりは、激しい社会的な不安定を引き起こす原因になると考えられています。これらの国々は、以前、自らを他の国の社会が見習うべきモデルである、としていました。
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野田が増税に命を賭けるなら、さっさと死ぬのが日本国民の幸福

「苫米地英人のブログ」から。
彼のブログ内の人気記事のようだから、既に読んだ人も多いだろうが、論理明快であり、猿でも分かる増税否定論なので、ぜひ拡散したいものである。


(以下引用)


2012年02月10日00:38
デフレ不況時の増税は最悪の選択だ。
これからこのブログを通じて、最近私が考えていることを不定期でまとめて発信しようと思っている。 時間があまり取れないので、私が話したものをクラブ苫米地にまとめてもらうスタイルだ。質問や意見はfacebookのアカウントにして欲しい。ツイッター140文字程度の意見は受け付けない。

デフレ不況時の増税は最悪の選択だ。

 市場に流通しているお金の量は、その国の経済規模(GDP)に応じて調整する必要があります。たとえばGDPが伸びている場合、新たに市場へ資金を供給しなくてはいけません。経済規模が拡大しているにもかかわらず資金が供給されないと、人材や設備などの投資にお金が回せなくなってしまいます。このように本来必要な資金が市場で足りていないために不況に陥っているのが、いまの日本の「デフレ不況」の構図です。

 市場に資金が供給される仕組みについて、簡単な例で解説しましょう。たとえば、土の中から「金」を掘り出すコストが10万円だったとします。それが100万円で売れた場合、新たに生み出される価値は90万円。GDPとは付加価値そのものですから、90万円はそのままGDPの伸び率につながります。では、その90万円に対するお金は、どこから来るべきでしょうか?

 これまで世の中になかった価値が生み出されたわけですから、すでに刷られている(市場に流通している)お金でその対価をまかなうべきではありません。新たにお金を刷って供給する必要があるのです。それが90万円。それ以上でも以下でもダメ。たとえば80万円分しか刷らないと市場に資金が足りなくなってデフレになり、100万円分も刷ると資金が過剰となってインフレになってしまいます。

 したがって、前年度のGDPが伸びていれば、それに合わせて新たにお金を刷る、というのが経済の原則です。これを忠実に守っている国は、インフレもデフレもありません。「インフレになる」「デフレになる」というよりは、これがインフレ・デフレの定義なのです。

「いまはデフレです」と言うと、必ず「そんなことはない。物価は上昇している」と反論する人が出てきます。たしかに、円高にも関わらず電気や原油の価格は上昇している不思議な価格上昇は事実ですが、これは個々の価格の上下動に過ぎません。「インフレ=物価の上昇」と勘違いしている人もたくさんいるようですが、マクロ経済では「モノ」といったら、すべてのモノとサービスの合計であり、「カネ」といったら市場に流通しているお金の合計のことです。個々の企業の業績、物価の上下動などはミクロ経済の発想なので、それらの合計指標としての物価の上下動と国家単位の現象であるインフレ・デフレとは、同列には語れません。お金を刷り過ぎて、すべての「モノ」に対して相対的に「カネ」の価値が下がるのがインフレ、逆に供給不足で相対的に「カネ」の価値が上がってしまうのがデフレです。つまりインフレ、デフレはお金の価値の下がったり、上がったりです。価値が変動するのはお金の方で、「モノ」の価値がお金の量で変わるわけがありません。インフレやデフレは、本来あることがおかしいのです。

 インフレやデフレは、市場に投入された資金の量で決まります。それがマネーストックです。マネーストックが上がったり下がったりする要因は単純で、中央銀行が新たにお札を刷るからです。これが民間銀行に供給されれば、BIS(ビス)規制下で中央銀行が刷った分を1とすると、民間銀行は理論的にその12.5倍のお金を貸し出すことができます(この比率を貨幣乗数と呼ぶ)。実際にはバーゼルIIIによって新たな規制が加わったため、7~8倍までしか融資できなくなりましたが、それでも中央銀行が新たにお札を刷れば、その何倍もマネーストックを増やすことができるのです。

 いまの日本でマネーストックが縮小している理由は、日銀が刷ったお金を本来は何倍にも増やさなくてはいけないはずの銀行が、逆に貸し渋りや貸しはがしをしているからです。その元凶はなにか?

 もちろん、BIS規制です。

 日本はBIS規制をまじめに受け入れたからデフレ不況になったのです。しかも、ヨーロッパでのめちゃくちゃな経済運営の例にみるように、世界中どの国よりも忠実に運用しているために不況が激しいという、じつに皮肉な状況に陥ってしまいました。したがって、いまの日本は「BIS不況」とさえ言えるでしょう。

 一方、ウォールストリートはデリバティブを含む「銀行を通さない資金供給」によってBIS逃れをしました。「デリバティブは、あくまでも金融“派生”商品であって、銀行融資ではない」という論理でBIS規制の対象から逃れて来ました。これによって、アメリカの銀行は、名目上ではBIS規制を守っているように見えます。しかし、実際の金融経済のなかで巨大な資金を供給してきたのはほかでもない、このデリバティブなのです。

 かつて同じ理由で発明されたのが、REIT(リート)でした。REITは不動産を証券化して市場でばらまくため、当初はBIS規制の対象になりませんでした。銀行による融資ではないため、BIS規制を逃れることができたのです。ちなみに、私がかつて三菱地所で働いていた頃に買収案件として担当したロックフェラーセンターは、世界最初の大型REITの例でした。やがてREITもバーゼルII(新BIS規制)の対象になり、代わって利用されたのがこのデリバティブだったのです。

 現在の日本は、デリバティブ市場がアメリカほど広がっていません。良いか悪いかは別にして、おもな資金調達源は依然として銀行であることに間違いない。もちろん、通常の直接金融(株式・社債)による資本調達は行っています。しかし、不況で企業の信用力も下がっているため、結果として資本市場からの調達も難しくなっています。つまり、本来は銀行の代わりになるはずの資本市場が、その役割を果たせていない。だからこそ、ウォール街はデリバティブという新商品に走ったのですが、彼らはまさにそのデリバティブでしくじりました。したがって日本としては、アメリカの二の轍を踏みたくない。では、どうすればいいか?

 繰り返しになりますが、第一に日銀がお札を刷り、第二にそれを銀行が7~8倍に増やしてマネーストックを上げること。この2つの要因だけが勝負なのです。にもかかわらず、日本はBIS規制をあまりにも真面目に運用しすぎているため、結果的に自らBISデフレ不況を招いている、というわけです。

 次に、デフレ不況下における震災復興の話です。
 ここで「土の中から金を掘り出す話」を思い出してください。震災復興は、まさにその典型的な例と言えます。復興のための建造物は、すべて「これまで世の中になかった付加価値」です。土の中から「金」を掘り出す構図とまったく同じ。したがって、震災復興を進めるには新たにお札を刷らなくてはいけません。そうしないとデフレ不況を悪化させてしまいます。

 現在、東北の一部では、すでに震災復興ブームで儲けている人が出始めています。しかし、仮に10兆円の付加価値が生まれた場合、同じ額のお札を刷らない限り、デフレは一気に悪化します。一部の誰かが儲けたからといって、経済全体という大きな枠組みで見ると景気が良くなるわけがないのです。

 では、復興財源を捻出するために、日本はどうすべきなのでしょうか。

 これは単純な話で、復興資金として日銀が新たに円を刷ればいい。それは日銀が国債を引き受けるということです。法律上では建前として禁止していますが、実際にはすでに行われている方法ですし、実際、日本のマネーストックの動きは日銀の引き受け量に統計的にも連動しています。

 これを現実的な手段として考えると、国が復興国債を発行し、それを全額日銀が円を刷って引き受ける必要があります。さらに良いのは、野田政権が日銀を通さずに、「震災復興財務省円」(いわゆるFiat money, 憲法通貨)を直接刷ってしまうことでしょうが、これは、通貨発行権に民主党が手を出すという事ですから、総理にはそれなりの覚悟がいります。

アメリカでそれをやったリンカーン大統領、ケネディ大統領の2人は偶然か必然か憲法通貨発行直後に暗殺されています。通貨発行権のカラクリに詳しかった興銀出身の中川昭一財務・金融担当大臣も財務省円論者でしたが、志半ばで亡くなったのは記憶に新しいことです。逆に中川昭一財務相のG7会見で隣に座っていた財務官はIMFの副専務理事に抜擢されているのが対象的です。

ただ、震災復興にマネーストックを増やす理想は財務省円の発行です。日銀が国債を発行すると金利が発生してしまうからです。もちろん日本の場合、国債の金利は日本人が日本人に払っているわけですから、本質的に問題は起きないのですが、将来の世代に利払いのツケを増税の形で回すことになります。未曾有の大震災の復興という極めて特殊な話ですから、総理はFRBなどの通貨発行権者達によく説明して、特例として「震災復興財務省円」の発行を認めてもらうのが理想です。

 一方、現在のデフレ不況のもとで最悪な手段が、増税です。理由はこれまでにお話した通り、復興資金のための円を新たに刷らないからです。財源を国民の財布から持ってくるからです。これでは右のポケットから左のポケットにお金を移し替えるだけで、マネーストックは増えません。それどころか、預金に回る分が税金の支払いに使われるならば、貨幣乗数で増えるはずの貸し出しが消滅し、7~8倍のマネーストックが失われます。また、預金ではなく消費に回る分が税金の支払いに使われる場合は、政府が税収を実際に復興に消化するまでタイムラグで、消費が落ち込みます。

 したがって増税で復興予算をまかなうと、復興が不況を悪化させる、つまりこのままいくと日本は、復興不況に陥るリスクさえあるのです。だからこそ、復興財源を増税でまかなおうとする現在の財務省主導の政策は誤っていると言えるのです。

 もちろん、増税を実施すると、国民の可処分所得が減ります。するとモノを買わなくなり、消費が落ち込みます。企業の景気が悪くなると、給料が下がります。そしてさらに消費が落ち込み……こうして絵に描いたようにデフレスパイラルが悪化するのは目に見えています。

 結論。

 デフレ不況時の増税ほど愚かな政策はない。また、震災復興のように新たに付加価値を創出する、つまりGDPを増やす財源には新たにマネーストックを増やさないとデフレ不況を悪化させる。デフレ不況時に復興財源を増税でまかなうのは最悪の選択だということです。

これほど単純な論理なのに、国会では話し合われていません。その事実を、私たちはしっかりと認識しておかなければいけないでしょう。

今年は総選挙が予想されます。皆さんの投票行動で国民の利益を守りましょう。

今から、皆さんの選挙区の各党議員に上記の議論を持っていき、それに対する態度で、投票行動を熟考するのがいいでしょう。国会議員に意見を伝えるのは有権者の当然の権利です。

【語句解説】

【マネーストック】
金融機関から経済全般へ供給されている通貨の総量。金融機関や中央政府を除く経済主体(一般企業、個人、地方公共団体など)が保有する通貨量の残高を集計して作成されている。2008年、日本銀行は従来の「マネーサプライ統計」を見直し、新たに「マネーストック統計」として作成、公表を行っている。見直しの際、マネーサプライでは証券会社、短資会社、非居住者が通貨保有主体に含まれていたが、2008年以降は除外された。また、各指標に含まれる金融商品の範囲についても変更されている。

【BIS(ビス)規制】
銀行における財務上の健全性を確保するため、1988年7月にBIS(Bank for International Settlement=国際決済銀行)がホストするバーゼル銀行監督委員会で合意された銀行の自己資本比率規制のこと。国際的に活動する銀行に対して、銀行の自己資本を分子、リスクの大きさを分母とする比率(自己資本比率)が8%以上であることが求められている(海外拠点を持たない銀行は4%)。日本では1993年3月末から適用された(バーゼルI)。

【貨幣乗数】
マネタリーベース(現金および中央銀行への準備預金の合計のこと)1単位に対して、何単位のマネーストックを作り出すことができるかを示す指標。日本においては、通貨供給量(マネーストック)を、日本銀行が金融機関に回すお金(マネタリーベース)で割って算出される。

【バーゼルIII】
BIS規制(バーゼルI)、新BIS規制(バーゼルII)に次ぐ、新たな枠組み(規制強化策)のこと。2008年以降、世界的な国際金融経済危機の背景となった銀行監督問題を教訓に、銀行の自己資本の質の向上、リスク管理の一段の強化といった観点からバーゼルII改訂作業が進められた。新たな合意の基本的な内容は2011年1月に公表されており、今後は2019年度までに全面的に採用される予定となっている。

【デリバティブ】
金や原油などの原資産、株式や債券などの原証券の値の変化に依存してその値が変化する証券のこと。原資産、原証券に関しては制限はないが、通常は取引されている証券の価格を用いる。代表的なものに、先物取引、スワップ取引、オプション取引などがある。ちなみに、“derivative”とは「派生的」「副次的」という意味。

【REIT(リート)】
Real Estate Investment Trust(不動産投資信託)。2000年11月に施行された改正投資信託法により、投資信託の運用対象に不動産も認められたことから導入が可能になった。多くの投資家から集めた資金をもとに不動産を購入し、その賃貸収入や売却により生じた収益から不動産の維持・管理費用や支払い金利を差し引いた後に残る利益を投資家に分配(還元)する、という仕組み。対象となる不動産には、オフィスビルや商業施設、ホテルやマンション、倉庫などがある。

【バーゼルII(新BIS規制)】
銀行の抱えるリスクの大きさ(自己資本比率の分母)をより精緻なものとするべく、1998年からBIS規制(バーゼルI)の抜本的な見直しが開始され、2004年6月に新BIS規制(バーゼルII)が公表された。なお新BIS規制では自己資本比率の分子と達成するべき水準についてはBIS規制と変更がない。日本では2007年3月末から適用された。

(取材Club Tomabechi   http://www.club-tomabechi.jp/)

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新しい進歩は辺境から生まれる

前回の記事の趣旨を後押ししてくれるような言葉が井口博士のブログに書かれていたので、転載する。
私は、世間的な意味での冒険家というものにはほとんど興味が無い。徒歩で南極点に行こうが、無酸素でエベレスト(今はチョモランマとかいう変な名前になったが)登頂をしようが、人類の進歩にはまったく無関係なくだらない行為だと思っている。
しかし、科学者の発明や発見は、人類全体の幸福にそのままつながる素晴らしい行為・達成であり、その発明や発見に至る過程は、それこそ人類の望みうる最高の知的冒険だと思っている。冒険とは、何も肉体的行為だけではない。
しかし、その科学者が権威に従うようになったら、新たな発明も発見もありえないのは当然だろう。科学者が教会の権威に従って天動説を信じていたら、現在の宇宙物理学は存在したか? ならば、現在主流であるビッグバン説だろうが膨張宇宙説だろうが進化論だろうが疑うのが真の科学者だろう。
というわけで、ある種の考えが、現在は奇説・怪説・オカルト・珍説とされていようが、そこから人類を新しいステージに引き上げる大発見が生まれる可能性は高いのである。


(以下引用)


こういう科学者集団の世界からみれば、フリーエネルギー発電、重力発電など、「まゆつばもの」に見えるだろうが、その予算レベルで言えば、誤差の範囲内程度というスモールスモールサイエンスに過ぎないのである。しかしながら、最初は飛行機も紙飛行機から始まったように、町工場の中の小型発電機が、将来には、地球規模の重力発電機に変わらないともかぎらないのである。マッキントッシュも最初はガレージから始まったのである。

この意味では、ビッグサイエンスの世界、バイオサイエンス、高エネルギー物理などの世界の科学者は、科学者としての本来の目的やその精神を忘れてしまったと言えるだろう。科学者は、「権威を信じるな」が合い言葉だった。「権威の否定」こそが、科学者のもっとも科学者らしい伝統だったのである。

日本の科学者やインテリたち、普通の教科書通りに成長した人々、こういった人間も、そろそろ「覚醒」して良い頃ではないのだろうか? 私はそう思うが。

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大手電機メーカー経営陣は総退陣せよ

「伊勢白山道」というオカルト系ブログ(と言うのは失礼か。ROCKWAY EXPRESS推奨のブログだが、私には合わない)で知った情報である。このような発明や発見から、世界全体の産業の在り方、文明の在り方が変わる可能性もある。その最たるものはフリーエネルギーだろう。エネルギーがタダになれば、世界支配層の支配体制の終焉、地上の天国へはもう一歩である。
こうした工夫や発明を地道にやっている庶民の姿は実に尊い。
この記事との比較で思い出されるのが大手電機メーカー経営陣の無能ぶりである。あれだけの赤字を出したら、経営陣の総退陣が当たり前だろう。それがそうならず、従業員の首切りという非道な振る舞いをして社会的制裁を受けないというのは、この国は狂っているのではないか?まあ、この国が狂っているというのは今更の話だが。

(以下引用)

磁力抵抗「ゼロ」の発電機 草津の男性が発明

軸を回した時に磁石の抵抗が少ない発電機を発明した平松さん(右)と、解析した中村准教授(京都市西京区・京都大桂キャンパス)
 滋賀県草津市の元建設請負業の男性が、発電機を回す時に生じる磁石の抵抗を大幅に軽減させる仕組みを発案し、解析した京都大准教授がこのほど学会で発表した。簡易な構造だが誰も試みなかった「コロンブスの卵」的発想で発電装置の簡略化が見込め、電気自動車や風力発電などへの応用に期待も高まっている。
 同市平井5丁目、平松敬司さん(72)の連式発電機。永久磁石を用いた発電機は磁石を円盤に並べて相対させ、軸を回転させることで電気を発生させる。しかし、磁石同士が引き合う力が働くため、回転が重くなることが「宿命」だった。
 平松さんは、4台以上の発電機を1本の軸でつなげ、各台の磁石の位置を軸から見て均等な角度でずらすことで、磁石が引き合う力を相殺させることを発案。モデルを試作したところ、発電機を増やすにつれ回転が軽くなることを確認した。国際特許を出願し、現在審査中だ。
 平松さんは民間の試験機関に依頼して解析したデータを基に昨秋、京都大の中村武恒准教授(電気工学)に相談。中村准教授がコンピューターで解析したところ、発電機を8台並べると磁力の抵抗がほぼゼロになることが分かった。このほど茨城県つくば市で開かれた春季低温工学・超電導学会で発表した。
 中村准教授によると、平松さんの発電機で生じる電気は波形がぶれず発熱ロスが少ないため、発電機の「弱点」ともいえる制御装置や廃熱装置が不要になることも見込める。低回転でも電気が取り出しやすいなど利点が多く、ハイブリッドカーや電気自動車の発電機をはじめ風力発電機などへの導入も期待される。すでに企業からの引き合いもあり、本格的な発電機を試作し、応用を検討する。
 中村准教授は「目からウロコの発想だが、どうして今まで誰も気づかなかったのか。多分野への広がりが期待できそうだ」と驚き、平松さんは「自転車の発電機の抵抗を軽くしようと思いついたのがきっかけ。素人の発想を聞いてもらえてありがたい」と、協力に感謝している。
【 2011年05月31日 09時22分 】

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